強いトラウマが引き起こす過敏性腸症候群という現代病

排便に関する悩みとして現代人に増えているのが、過敏性腸症候群(IBS)です。

特に午前中に下痢が多い「下痢型」と、便秘が辛く排便で症状が和らぐ「便秘型」、「下痢と便秘を繰り返す型」の3型に分けられ、これも腸内フローラの乱れが要因だと考えられています。。

すぐ下痢になる、あるいは下痢の後ピタッと出なくなって便秘になるなどの症状が続いていて、腸に原因となる病気が見当たらないとき、この病気が疑われます。

脳腸相関によるストレスと関係があり、IBSを発症するのは若い方が多いのですが、50歳を過ぎて急に起こる場合もあります。「自動車教習所に通いだして」「地域の自治会長の順番が回ってきて」などで症状が始まったという例もあります。

一度ひどい症状を経験すると、それがトラウマとなって頭に残ります。たとえば、出席したくない会議がある朝、通勤途中で一度症状が起こると、朝の通勤電車でいつもおなかが痛くなり、トイレのために途中下車するようになってしまいます。

IBSはストレスが多い人に起こりますが、一般に気が細やかで感受性の強い方、学者や研究者、芸術家タイプに多いといわれます。そして失敗がないようにと、通勤途中駅のトイレの場所を全部覚えてしまったりします。いつもトイレのことばかり考えるので、その駅が近づくと脳が腸管の神経系に働いて、激しい便意が起こるのです。

IBSには有効な治療薬も出ていますので、それを使いながら脳腸相関の仕組みを知り、自分の病気を理解することが大切です。「これはストレスが関係している病気だから、トイレの場所など忘れたほうがよいのだ」「トイレや排便のことを考えない」と自分に言い聞かせることで、だんだん自己コントロールできるようになっていきます。

腸の炎症は大腸がんにかかりやすくなる恐れも

脳腸相関という脳と腸のクロストークが腸にどう作用するか、これには炎症の存在が極めて重要な意味を持っています。IBSの患者さんでは、発症する少し前に風邪や食あたりなどにより、外から侵入した菌やウイルスによって急性の感染性腸炎が起きているケースが多いことがわかっているのです。これを感染(性腸炎)後過敏性腸症候群といいます。

感染による腸内フローラのディスバイオーシスにより粘膜の微細炎症が残っているためか、腸管に自己免疫反応が生じて炎症が生じるためか、発生機序はよくわかっていません。

腸は食べ物の通り道であり、有害物質などの毒素がたまりやすい場所です。脂っこいものを食べ過ぎても腸はそれらを異物や敵と認識し、腸管を守ろうとして、ときに炎症を起こします。

腸内細菌のバランスが崩れて悪玉菌が蔓延した腸管では、こうした微細な炎症が慢性化し、何らかのストレスがかかると脳腸相関により腹痛や強い便意などの知覚過敏が起きやすく、IBSが発症すると私たちは考えています。

腸粘膜には体内の免疫細胞が多く集まっているため、たとえ弱い炎症でも免疫機能への影響が大きく、アレルギーや自己免疫性の病気、大腸がんにもかかりやすくなる可能性があります。

これまで見てきたように、生誕直後から付き合ってきた腸内フローラとの共生関係を良好に保つことで、腸管のバリア機能を高め、腸管免疫細胞による免疫機能も鍛えられるのです。