「あるのが当然」まで仕分けする!

勝機あり、とみた同社は09年から全国で怒濤の出店攻勢に打って出ている。

究極の安さ実現のための「コスト削減」の努力と工夫は並大抵ではなかった。最初にやり玉にあがったのは、料理だった。谷酒氏の言葉を借りれば、食材の原価を見直す「料理イジメ」である。セントラルキッチン方式によって本部で事前に下処理をするが、数が多いと強力な仕入れ力があってもコストは膨大だ。だから料理アイテム数を削りに削る。確かな利益が見込める麺ものやご飯、さらにはお通しまでも泣く泣く排除した。刺身はツマや大葉はつけない。だが、この苦難のメニュー仕分けにおける最大のクライマックスは、焼き鳥だった。やめる、やめないで社内は喧々囂々の大激論となったのである。

「『養老乃瀧は50年間、串焼きを看板メニューにしてやってきた。絶対外すわけにはいかない』という声が大でしたが、結局、やめることにしました。家族客も多い居酒屋ではなく、中途半端ではない激安の酒場というコンセプトだけはブレぬよう考え抜きました。自分で言うのも変ですが、英断でした」(谷酒氏)

勇気を持って「捨てる」覚悟を貫いたのである。焼き鳥を導入すると厨房スタッフの一人はそれに付きっきりになる。頃合いを見て串を裏返す手作業は意外と大変だ。人件費が余計にかかる分が価格にしわ寄せされては、客は来てくれない。

「あるのが当然だったけど、新業態ではなくてもいいかもしれない」。それに該当するのは焼き鳥のみならず、おしぼり、割り箸の箸袋、メニュー表の商品写真、入り口の自動扉など。おしぼりは? とリクエストする客にはウエットティッシュを一枚提供し、箱はすぐに片付ける。器やテーブル、椅子などはできる限り前店舗のものを流用し、内装も最小限度にする。電気代節約で照明ランプを取り外すこともある。なんてセコい戦略だ、と思えるかもしれない。だが、客で賑わう店内にそんなチープ感はない。客単価ダウンに、利益率アップ。徹底的なコスト削減の成果を店と客とで分け合う理想的な展開になった。

「本当はなくてもいい、過剰なサービスが多すぎる。細かいことを言えば、おしぼりをテーブルに運ぶことにもコストはかかっています。しかも布おしぼりなら安くても一本5円。5円の利益を得るのは大変です。商品の価格を因数分解して、そのひとつひとつをイジメる地道な作業なのです」(谷酒氏)

※すべて雑誌掲載当時

(明田和也=撮影)