パン、ケーキ、パスタ、うどん、ラーメン…すべてダメ

これまで食物アレルギーになったことがない人にとっては、この“旧茶のしずく石鹸事件”のことを聞いても、「まあ、小麦を食べないようにすればいいんだよね」程度にしか感じないかもしれません。

しかし、小麦のようなとても身近な食物の場合は特に、それを食べないようにするのは想像以上に大変なことです。小麦アレルギーを発症し、小麦の摂取を禁じられると、パン、ケーキや、パスタ、うどん・そば・ラーメンといった麺類など、数え上げればきりのないほど多くの食物が食べられなくなります。

そのために思う存分食事が楽しめなくなり、友人と気軽に食事に行けなくなって孤独感、疎外感を味わった人、重篤になり仕事をやめて治療するなど将来の夢を閉ざされてしまった人もいたほどです。日常生活に大きな支障をきたす可能性があると告げると、当院の待合室で泣き出す患者さんもいました。単に小麦を食べられないというだけでなく、さまざまな社会的活動までが制限されてしまうのです。

木製ボード上の生麺
写真=iStock.com/niuniu
※写真はイメージです

アレルギーの既往歴がまったくない人でも発症している

今では、多くの患者さんの小麦アレルギー症状はかなり軽くなっています。しかし、この集団アレルギー事件は、メンタルの面においてはまだまだ現在進行形に思えます。被害者が受けた心の傷、悩み、苦しみ、またいつか別の食物でアレルギーが出てしまうのではないかという不安はそう簡単に拭いきれるものではありません。

福冨友馬『大人の食物アレルギー』(集英社)
福冨友馬『大人の食物アレルギー』(集英社)

この事件の被害者には、もともと小麦アレルギーがあったのではないかと思われがちですが、それは間違いです。アレルギーの既往歴がまったくない人でも発症していますし、体質など発症しやすい傾向があったわけでもなく、誰にでも起こり得る、誰も予想しなかったことが起こっています。成人になってから初めて発症するという事実は、多くの人にとって衝撃でした。

アレルギーが集団で発生するのはごく稀ではありますが、個々人誰にでも新たに起こり得る成人の食物アレルギーが、とてもやっかいな疾患である一面を、この事件は教訓として示しています。

【関連記事】
「1日2個、切ってスプーンで食べるだけ」メンタル不調に効く身近な"あの食べ物"
がんを完治させる力はほぼなく、毒性で死に至る…そんな抗がん剤が「標準治療」となっている理由
「痩せたいのなら、もっと食べなければダメ」日本人の食事に絶対的に不足している"ある栄養素"
地獄行きのバスに乗るようなもの…高齢者は「大学病院の専門医」をかかりつけ医にしてはいけない
「うんこは出すものではなく、落とすもの」肛門科専門医がトイレで3分以上頑張ってはいけないと力説するワケ