スポンサーの6割がサッカーに興味がなかった

【小山】静岡県のサッカーJ3・藤枝MYFCは400以上の株主たちに支えられたクラブでしたが、そのうちの6割ぐらいはサッカーに興味がない方々だったんです。ただ、プロサッカークラブは地域創生のためのツールであり、「フットボールは大人を子どもにして、子どもを大人にする」という有名な言葉があるように、そういったアカデミーを通じた人間形成、教育水準の向上に資するものなんです、といった理念を説明すると、そこに共感してくださり出資者になってくださいました。

サッカースタジアム
写真=iStock.com/mel-nik
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また、その共感があったゆえに、出資だけでなく毎年合計2億円弱のスポンサー支援も各企業からいただいてました。これは藤枝がブランドだったと考えていいのですか?

【阿久津】それは藤枝がブランドだったとかブランドではなかったという捉え方をするよりも、株主さんたちは藤枝の理念に共感したからスポンサーになったということで、その理念を象徴するものとして藤枝というブランドがあったと捉えるべきではないでしょうか。

【小山】なるほど。だとするとやはりブランドというのは実態がつかみにくいなとも思ってしまいますが、一体、ブランドって何なんでしょうか?

ブランド価値の源泉は「まずは知ってもらうこと」

【阿久津】ブランドって、一言でいえば記号なんですよ。でも、なぜ記号に価値があるかといえば、何らかの価値あるものを象徴するシンボルだからです。そして、シンボルだからこそ、じゃあ何を象徴しているのかということがすごく大事になるんです。

【小山】記号であるブランドが何を象徴しているのか。そこがやはり重要だとして、それってやはりわかりにくい部分でもありますよね(苦笑)。

【阿久津】そうですね。確かにこれは混乱しやすい部分であり、だからこそ、それを整理して明確にしたデービッド・アーカーの「ブランドエクイティ」という概念(※)がビジネスに役立つと評価された理由でもあるんです。

ブランドエクイティの研究が広まる以前から、ブランド資産とかブランド価値という言葉は使われていたのですが、そこで言う資産とか価値の源泉は一体何なのかについては必ずしも明確でなかったんです。ブランド価値の源泉とは何か? それがよくわからなかったわけですよ。

(※)デービッド・アーカー『ブランド論 無形の差別化を作る20の基本原則』(ダイヤモンド社)

【小山】はい。大本となる価値の源泉とは何か? ってなると、よりイメージしにくいです。

【阿久津】そうですか……(苦笑)。価値の源泉は一つではありません。まず、ブランドの認知が挙げられます。ブランド認知とは、簡単に言えば、そのブランドの名前やロゴを見たり聞いたりしたことがあるか? 知っているか? ということです。

そもそも「認知」されていない状態だと価値を持ち得ません。「まず知ってもらう」ことがとても大事なんです。TVや雑誌をはじめ、サッカーでいえばユニフォームやサッカー場に掲示する看板もすべて、スポンサーにとっては認知向上のためのメディアです。

「この会社のロゴ、どこかで見たことある」とか「この会社の名前、たしか聞いたことある」といった最低限の認知が達成されてはじめて、そこに何の意味があるのか、何を象徴しているのかといった次の段階に進めるわけですが、スポンサーの動機として、この「とりあえず、知ってもらいたい」、認知を高めたいという動機づけが大きすぎて、その後の話をしてもなかなか理解してもらえないということは十分あり得るだろうと思います。