従業員の離反をきっかけに「全員経営理念」へ

まずは社長就任の3年前、1991年。当時社長だった母が弟と結託し、実質的に経営から外された。野島氏は父母が相模原市で興した野島電気商会に1973年に入社以来、陣頭指揮で売上高100億円超までにしたが、母と経営方針が合わなくなっていた。

ショックだったのが、幹部社員が誰も反対しなかったこと。なぜ従業員たちが自分から離れてしまったのか、考えた。

「僕だけ頭が先行し、部下にそれを理解してもらえなかったから、僕についてきてもらえなかった。誰もが読み書きそろばんができ、ペリーが評価した明治維新の頃の日本に重ね、全員が会社の状況を全部把握し、他の人が何をしているかも把握する。それが必要だと気づき、『全員経営理念』をつくったんです」

その次の布石は、そこからの「大失敗」だ。事業を切り分け、子会社を多くつくり、生え抜きの社員や外部から招いたベテラン人材をその責任者にすれば、業績が伸びると考えたが逆だった。

「2度の失敗」について語るノジマの野島廣司社長
撮影=西田香織
「2度の失敗」について語るノジマの野島廣司社長

「数字は後からついてくるもの」と方針を変え、会社は伸びた

「社長の気持ちがわかると思ったが、自分のことばかり考えて、数字を部下に押し付けたり、損得を考えたりで、業績が悪化してしまった。94年に社長になって見つけたのが、『数字は後からついてくるもの』という考えです。予算をつくって押し付けても、社会やお客さまに喜ばれないと数字が上がっていかない。数字で管理するよりも、世の中でやってないことを当社はやる。ユニークなことを、他社より早くやる。従業員の質を上げる。そうすると結果、数字は上がる」

そこにたどりついたら、ありがたいことに会社が伸びたと野島氏。確かにノジマの業績は好調だ。2021年3月期の連結決算(スルガ銀行の持分法投資損益を除く)を見ると、売上高は5233億2700万円。前期比0.1%の微減だったが、2020年3月期までは3期連続増収だった。経常利益は361億3700万円(同49.7%増)で、6期連続最高益を更新。2022年3月期も増収増益を見込んでいる。

最近の「ユニークなことを、他社より早く」といえば、2020年7月に打ち出した新たなシニア雇用だ。「本人が希望すれば、80歳まで臨時従業員として雇用する」というもので、韓国やドイツなどさまざまな国のメディアからも取材が殺到した。

2022年3月現在で、65歳以上の従業員は58人。最高齢はイオンモール川口前川店に勤務する80歳の女性で、バックヤードでの仕分けや品出しなどを担当している。本人からの希望があり、健康状態や勤務状態などを踏まえて80歳を超えても働き続けてもらうことになったという。