日本で起業家が増えないのはなぜか

【大前】いまは石を投げればマッキンゼー出身の起業家に当たるけど、柴山さんが勤めていた頃はどうだったの?

ウェルスナビCEO 柴山和久氏
ウェルスナビCEO 柴山和久氏

【柴山】そうですね。私が入社した2010年頃は、起業に関心がある人は少なかったですね。どちらかといえば、未公開株式に投資するプライベート・エクイティの会社に移る方が目立っていた時代です。マッキンゼー出身の起業家が増えたのは、ここ5年のトレンドではないでしょうか。

【大前】実はその前にも、1999年にDeNAを設立した南場智子さんや、2000年にエムスリーを設立した谷村いたるさんなどの起業家がかなり出た時代もあったんだよね。オイシックス・ラ・大地の高島宏平さんも、00年に創業したね。起業で成功する人が現れると、みんな引っ張られるんだろうね。

私は1972年から22年間マッキンゼーにいたけど、同期たちは定年まで勤めた人が多かった。勤続年数が長いほど給料は高くなるし、社外では偉そうにできる。ほかの商売なんてできないから、だいたいコンサルタントとして朽ち果てていく感じだったな。

マッキンゼー出身の起業家たち

【柴山】起業家が増えたのは、アメリカのマッキンゼーも同じです。誰か成功すると「自分もうまくいくんじゃないか」と思うんでしょうね。ただ、私が起業したときは、同僚たちから強く止められました。「日本人が資産運用するはずがない。資産運用の専用アプリなんてうまくいくはずがないよ」って。

【大前】これだけ伸びているサービスなのに、周りは否定的だったんだ。

【柴山】否定的な人が多かったですね。心配してくれたのでしょうけど、頭がよくて仕事ができる人ほど、リスクが明確に見えてしまうようです。失敗する理由は、ものすごく高い解像度で頭に浮かぶ。反対に「未来はこう変わる」という明るいビジョンは解像度が高くならない。天秤にかけると否定的に傾きますね。もちろん、マッキンゼーの中にも、日本支社長(当時)のジョルジュ・デヴォーみたいに背中を押してくれる人はいました。ただ、周囲の否定的な反応は、日本で起業家が増えない壁の1つだと感じました。

【大前】いい学校を出て、自分には大抵の答えがわかっていると思う人は、発想がそこで止まっちゃうんだよ。私みたいに不良少年で、親、先生、上司の言うことを聞かない人間は、自分で考えるしかないから発想力・構想力が自然と身についてくるね。