コンサルタントより起業家になれ!

【柴山】実は、大前さんも背中を押してくれた1人なんです。

【大前】そんなことあったかな。

ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一氏

【柴山】起業を考えていた頃、大前さんがマッキンゼーのパーティーにいらしたんです。司会者の「これから就職する学生にマッキンゼーを薦めますか?」という質問に、大前さんは「いや、起業を薦めます」と答えられたんです。新卒の就職先でマッキンゼーが人気になった頃ですから、みんなびっくりしましたよ。起業を考えていた私は心強く思いました。起業の数カ月前に大前さんのお話を聞けたのは本当に幸運でした。

【大前】ああ、そういうタイミングだったんだ。マッキンゼーには、94年に辞めてから2回しか行ってないから、そのうちの1回だ。ちょうど私自身が5社ぐらい会社をつくって、起業への関心が高かった頃だと思う。

私は第1の人生が日立製作所の原子力開発、第2の人生がマッキンゼー、第3の人生が「平成維新の会」。自分は政治の世界は無理だとあっさり足を洗って、起業家育成学校をはじめたのが第4の人生だ。平成維新の会でボランティアをしてくれていた人たちが、96年に起業家育成のアタッカーズ・ビジネススクール(ABS)を立ち上げてくれた。私が創業者になっているけど、実際に動いたのは彼らなんだ。私自身は98年にビジネス・ブレークスルー(BBT)を設立し、その後はいくつも会社を設立してきた。

【柴山】私は90年代前半、高校生の頃から大前さんの本を読むようになって、強く思ったのは、大前さんはビジョンを描く方だということ。高校生の私が衝撃を受けたのは、「インターネットの時代がくる」とはっきり書いてあったことです。ウィンドウズ95の登場前で、まだインターネットという言葉がほとんど聞かれない頃です。誰にも見えない未来を明示されて、実際5年後に書いてあった通りになった。いま見えないものを創りだすのが起業の目的だということは、大前さんから学びました。

【大前】芸術家は白いキャンバスに絵を描くけど、経営者も同じことをやっている。21世紀の経営が難しいのは、従来のリアル経済だけじゃなくて、サイバー経済、マルチプル経済、ボーダレス経済の「4つの経済」が連なっている点だ(『新・資本論』に詳述)。起業家はいろんな経済を削り取って会社をつくる。どこでお客さんと出会い、何を提供するか。みんな意外と気づかないけど、経営者は頭の中でお客さんのニーズと結びつけていく。見えないものを見る力が重要になってくる。

前述のABSは、卒業生が7000人近くいて810社以上誕生した。最初は後藤玄利さんが2000年に設立した「ケンコーコム」(後に楽天が買収)。元榮もとえ太一郎さんが05年に設立した「弁護士ドットコム」も、そのうちの1社。吉田浩一郎さんのクラウドワークスや笠原健治さんのミクシィ、武田和也さんのRetty、清水祐孝さんの鎌倉新書など、IPOした会社は13社あって、時価総額を足したらかなりの額になる。そのほか、Googleが100億円超で買収して一躍有名になったpringの荻原充彦さんも08年に入塾している。起業家育成では日本で一番貢献していると思うよ。