アメリカのお金持ちはどういう生活を送っているのか。アメリカ在住のエッセイスト渡辺由佳里さんは「何世代も上流階級にいる『オールドマネー』たちは何十年も同じ車に乗り、上質な服や靴をずっと使い続ける。一代で富を築いた企業家とはお金の使い方は全く違う」という――。

※本稿は、渡辺由佳里『アメリカはいつも夢見ている』(KKベストセラーズ)の一部を再編集したものです。

手でかざされた自動車の模型
写真=iStock.com/AndreyPopov
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初めてアメリカの富豪に出会ったあるパーティ

経済格差社会のアメリカには富豪も多い。2021年10月現在、ビリオネアの数は724人で世界1位だということだ。

映画で描かれるアメリカの富豪のイメージは、高級ブランドで身を包み、世界中にいくつも持っている大邸宅の間を自家用飛行機で行き来し、ミシュラン星2つ以上のレストランで毎日食事……といったものだろう。

私が1980年代に初めて出会ったアメリカのお金持ちがまさにそんな感じだった。それまでお金持ちに触れる機会がなかったので、動物園に初めて行ったときのように物珍しくて興奮したのを覚えている。

現在の夫であるデイヴィッドと付き合いはじめて1年ほど経った1988年末、ニューヨーク市近郊に住む彼の両親を初めて訪問することになった。一足先に自宅に戻っていた彼から「大晦日に弟夫婦の友人のレオのパーティに招待されているので、ドレスを持ってきて」と言われた。適当に選ぶつもりでいたら、彼のお母さんから「着物を持っているのなら、そちらにしたほうがいい」という助言があった。

招待客は値踏みするような視線を向けてきた

パーティのホストであるレオは私より年下の25歳だから私が持っているドレスで十分だと思っていたのだけれど、ボーイフレンドの母親の意見は重視したほうがいい。そこで、叔母から着物を借りてアメリカに飛んだ。

大晦日の夜、慣れない着物をなんとか着付けてデイヴィッドと一緒に車で友人宅に向かった。公道からレオの家の門に入ったのだが、それらしい建物が見えない。門から500メートルほど車を走らせて、ようやくお屋敷が見えてきた。敷地の中には公式の試合に使えそうな立派なテニスコートもある。

パーティに招待された客のほとんどはレオの私立学校の同窓生なので私より年下だ。知らない人ばかりだから聞き役に徹していると、女の子たちはお互いのドレスやネックレスの話ばかりしている。どうやら彼女たちが着ているのはシャネルなどの高級ブランドのドレスらしい。

黒いベルベットのドレスを着た女性は、「私、ヴァレンティノのヴィンテージドレスが欲しくて相当探し回ったのよ。それに合うパールのネックレスを見つけるのも苦労したわ」と言い、値踏みするような視線で私を眺めた。