東海岸に住む上流階級の避暑地ナンタケット島

この時から30年ほどの間に、アメリカ中でいろいろなリッチに会った。大企業の最高経営責任者として高額の給与を得た人、何世代にもわたって富を引き継いでいる「オールドマネー」、一代で富を築き上げた「セルフメイドマン」と「ニューマネー」、そして、近年ではテクノロジー関係のスタートアップを短い期間に大きく育てた起業家など、それぞれにお金との付き合い方が異なる。彼らとは異なる立場にいる私にとっては、それを観察するのが面白い。

歴史が浅いアメリカにはヨーロッパのような貴族階級はない。そのかわりに上流階級として君臨するようになったのが何世代も富を蓄積した「オールドマネー」だ。代表的なオールドマネーは、18世紀から19世紀にかけてヨーロッパからアメリカに移住してきたルーズベルト、カボット、ロウウェル、デュポン、フォーブス、アスターといった一族だ。

政治や産業が最初に根付いたのがボストンやマンハッタンなので、富を何世代にもわたって受け継いできたオールドマネーは、今でも東海岸に集中している。

オールドマネーの避暑地として知られているのが、ボストンやニューヨークからアクセスの良いナンタケット島である。土地部分が123平方キロメートルしかなく、しかも大部分が開発を許されない保護地だ。新たに家を建てる許可がなかなか下りないので、常に供給より需要が大きく、景気後退でもあまり不動産の価格が下がらない。

派手な看板を禁じられており、昔のままの風情を保っているナンタケット島の中心街
写真提供=筆者
派手な看板を禁じられており、昔のままの風情を保っているナンタケット島の中心街

オールドマネーは豪邸や自家用ジェット機を持っていない

住居の平均販売価格はパンデミックのさなかの2020年にも平均が2.55ミリオン・ダラー(約2億6千万円)で、不動産業者のレポートによると10億円から20億円の高額な邸宅の売れ行きが特に良かったという。

こういう家を買う富豪は、他にも家をいくつも持っている。それらの家を行き来するために自家用機を持っている人も多く、規模としては小さなナンタケット空港はマサチューセッツ州ではローガン国際空港の次に忙しい空港になっている。

何十億円もする豪邸を持ち、自家用ジェット機をお抱えのパイロットに操縦させてナンタケット島に来る人のほとんどは一代で巨大な富を築いた起業家である。オールドマネーは、それができる資産があっても大きな家は買わず、シングルエンジンのプロペラ機かヨットを自分で操縦してやってくる。