ここ数年、電力業界を取り巻く環境が激変している。地球温暖化対策に伴う政府の高いCO2削減目標が産業界を直撃した。とりわけエネルギーの安定供給を担う電力業界には大きな負担がのしかかる。また、国内需要が低迷するなか、各社の海外展開も加速している。だが、そこではライバル国との熾烈な受注競争が待ち受けている。

環境政策は経済の活力を奪いかねない

<strong>電気事業連合会会長 東京電力社長 清水正孝</strong>●1944年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。68年東京電力入社。92年企画部TQC推進室副室長、97年資材部長、2001年取締役。常務、副社長を経て08年、社長就任。10年6月、電気事業連合会会長に就任。
電気事業連合会会長 東京電力社長 清水正孝●1944年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。68年東京電力入社。92年企画部TQC推進室副室長、97年資材部長、2001年取締役。常務、副社長を経て08年、社長就任。10年6月、電気事業連合会会長に就任。
――景気や環境など課題が山積するなかでの電気事業連合会会長就任となった。電力業界を取り巻く課題と今後の取り組みは。

いろいろな課題はありますが、まず、原子燃料サイクルの確立が挙げられます。確かに、発電時にCO2を出さない原子力発電への期待が世界的に高まってきています。しかし、それには発電後の使用済み燃料の処理、バックエンドの整備をきちんとしないといけない。

そのために青森県内の六ヶ所再処理工場の建設に目途をつけ、高レベル放射性廃棄物処分の候補地を早く選定しなければならない。これらは国や日本原燃、原子力発電環境整備機構(NUMO)と連携して進めていきたい。

もう一つが、発電で発生するプルトニウムとウランを混合してリサイクルする技術である“プルサーマル”の推進。これは時間はかかっていますが、九州電力や四国電力などから着実に進んでいます。ウラン資源の有効活用やプルトニウムの平和利用の観点から、全力で取り組んでいきたい。

――昨年、鳩山由紀夫前首相が「温室効果ガスの排出を2020年までに1990年比で25%削減する」と打ち出した。これは菅政権にも引き継がれたが、国民生活や産業界に深刻なダメージを与えるとの指摘もある。

一つの環境政策が10年、20年、あるいはそれ以上にわたって国民生活、産業活動に大きな影響を及ぼし、負担をしいることになりかねない。ですから「90年比25%削減」ありきではなく、わが国だけ突出した目標とならないよう、その検討・推進に当たっては、効果をしっかりと見極める必要があります。

私どもは三原則といっていますが、政策の実現可能性と負担レベルの妥当性、そして国際的な公平性。こうした観点から、どのくらい納得できる政策になるかということが大前提になります。環境が重視されがちですが、経済とエネルギーの安定供給のバランスを保つことが極めて大事なことはいうまでもありません。

――経済と環境のバランスは難しい。環境政策をどう考えるべきか。

経済の下支えをしているものの一つがエネルギーです。従ってそのセキュリティ、すなわち安定供給が大前提になります。そのうえでCO2対策も進めていく必要があります。そして、その鍵を握るのが技術革新といっていい。先端分野に挑むためには、研究投資と設備投資が不可欠です。これは企業に活力がなければできないし、中途半端では成果も出ないでしょう。

特に問題となるのは、CO2の排出量取引制度や地球温暖化対策税(環境税)、全量買い取り制度のいわゆる“3点セット”です。これらはいずれも経済活動を抑制する方向に働きかねないのではないでしょうか。

例えば、排出量取引制度。これについては、公平なキャップの割り当てが困難、排出権が投機対象になる恐れがあるなどの課題があります。

また、税金に関していえば、電力業界はすでに年間1兆円規模の税負担をしています。そこに環境税が加われば、さらに大幅な負担増となり、必要な投資意欲もそがれかねない。さらに、全量買い取り制度については、7月に制度の大枠が公表されましたが、買い取るコストを電気料金のみに上乗せするのでは不公平が生じる。社会全体が公平に負担していく制度にすべきで、政府、関係機関との積極的な意見交換が必要だと考えています。