スパイはどうやって国家機密を盗み出しているのか。『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)から、うっかり口を滑らせる巧妙なスパイの手口を紹介する――。(第2回/全3回)

※本稿は、ジャック・シェ―ファー、マーヴィン・カーリンズ(著)、栗木さつき(訳)『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)の一部を再編集したものです。

会話する二人の男性
写真=iStock.com/AzmanJaka
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巧妙なスパイ活動は「共通点づくり」からはじめる

あなたが科学者であるとしよう。

あなたは国防総省から仕事の依頼を受け、国家機密も取り扱っている。

ある日、なんの前触れもなく、あなたに中国大使館から電話がかかってくる。そして、あなたの研究に関する講演をお願いしたいと、中国に招待される。

講演の内容自体は機密扱いではないうえ、渡航費から滞在費まで費用はすべて中国政府が負担するという。あなたは、中国政府から講演依頼があったと、国防総省の担当者に伝える。

すると、機密情報に触れないのであれば中国で講演してもかまわないと、国防総省から許可が下りる。

そこであなたは中国大使館に電話をかけ、ご招待をお受けしますと伝える。すると今度は、せっかくだから講演の1週間前にお越しになってはいかがですかと誘われる。そうすれば、事前に観光をお楽しみいただけますから、と。

あなたは承諾する。こんな幸運に恵まれるのは一生に一度かもしれない。そう思い、あなたは中国訪問を心待ちにする。

さて中国に到着すると、空港には中国政府の代理人が出迎えにきている。そして「ご滞在中は、ずっと私が通訳兼ガイドを務めさせていただきます」と挨拶をする。

翌日からも毎朝、通訳は起きてくるあなたをホテルのロビーで待っており、一緒に朝食をとる。それから1日中、一緒に観光をして過ごす。通訳はあなたの食事代をすべて支払い、夜の社交活動まで手配してくれる。

愛想のいい人物で、自分の家族やプライベートの話まで聞かせてくれる。そこであなたもお返しに、自分の家族の話をする。

とはいえ、妻と子どもたちの名前、それぞれの誕生日、結婚記念日、家族と一緒に過ごす休暇の話など、たわいない話をしただけだ。

こうして何日か一緒に過ごしているうちに、文化が大きく異なる国で暮らしているにもかかわらず、二人には多くの共通点があることがわかり、あなたは彼に共感と好意を覚える。