実は今回の“大やられ”は、投資銀行の無軌道ぶりに加えて、格付け会社の問題も1つの大きな背景にある。ムーディーズは2000年に株式を公開した。これをきっかけにムーディーズは、収益追求主義に走るようになっていった。つまり、中立であるはずの格付け会社が実質的に投資銀行の1部門になってしまっていたのだ。

ウォール街を練り歩く今回の金融恐慌の被害者たち。

ウォール街を練り歩く今回の金融恐慌の被害者たち。

そしてアメリカで不動産バブルがはじけたことで、すべてが一気に値下がりした。もっとも恐ろしいのは、巨額のマージンコール(追加担保)が凄い勢いでかけられていることだ。簡単にいえば、追い証を求められている。AIGもこれでギブアップした。

スワップやオプションといったデリバティブ取引をやり、引き受けたポジションや自分の信用状態が悪化すると、取引のカウンターパート(相手)からマージンコールをかけられる。すなわち担保預金を積み増さなければならない。ただでさえ資金繰りに苦労しているところにレバレッジを利かせた取引を行って、巨額のマージンコールを求められるのだ。

大手投資銀行が、どれほどの規模でデリバティブ取引を行っていたのかがわからないだけに、資金を調達することはなお難しい状況になっている。資金手当ができなければ、たちまちアウトになる。もちろん、彼らのカウンターパートとして取引していたヘッジファンドも相当に厳しい状況に追い込まれている。

大手投資銀行の過去4~5年の財務内容を見ると、営業キャッシュフローがずっとマイナスになっている。このことから、もともとそれほど儲かっておらず、経営実態はかなり悪いのではないかと見ている金融機関関係者も少なくない。

 

投資銀行「破綻論」の大ウソ

そうした最中に、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がモルガン・スタンレーに、最大で90億ドル(約9500億円)を出資すると発表した。当初は全額を普通株の購入にあてる計画だったが、モルガンの株価下落のリスクが高く、「あまりに無謀すぎる」といった声に慌てたようだ。

MUFGは計画を修正し、普通株比率を3分の1以下の30億ドルに抑え、残り60億ドルで優先株を取得するという。しかし、アメリカで金融安定化法案が可決、施行されたとしても、それですべての問題が片付くわけではない。90億ドルという巨額の投資がムダ金になる可能性は低くない。

今回の金融危機を突き詰めるならば、1970年代後半のアメリカにおける金融自由化に行き着く。それ以前の投資銀行は債券や株式の引き受け、M&Aというオーソドックスな業務を手掛ける程度で、いまのようなハイリスクで複雑なビジネスはやっていなかった。従業員数にしても、現在のように数万人規模ではなく、大手投資銀行でも数百人から千人にすぎなかった。