いったいどの金融機関がどれだけの損失を抱えているのか。誰もが疑心暗鬼に駆られている状況で、資金を出してはみたものの、つぶれられると元も子もない。

リーマンは債券分野に強みを持つボンドハウスで、デリバティブ取引が得意な投資銀行だった。また、証券業界4位という地位から脱却し、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチに追いつこうと、貪欲にリスクに食いついて行く「ダボハゼ」だった。それだけにサブプライム問題が浮上してマーケットが大混乱に陥ったのをきっかけに、大きく傷ついた。97年に破綻した山一證券によく似ている。

リーマンの息の根を止めたのは、破綻前に、今年6~8月期の四半期決算での純損失が39億ドルで、赤字決算となる見通しを公表したことだった。その直後から株価は下落し、わずか4ドルという紙くず寸前まで売り込まれた。短期間でリーマンが抱えているデリバティブ取引の「質」を査定することは不可能だったため、誰もが怖がり、立ち竦んでしまっていた。

リーマンにとって残された道は、破綻する以外になかった。

 

三菱UFJのモルガン出資は紙クズか

リーマンの名前が消え、ニューヨーク市場が史上最大の値下がりをした。この先どうなってしまうのかと不安に駆られるが、冷静に考えてみると、ほぼ10年に一度ある大きな波、つまり“大やられ”と見ることができる。ただし、今回はその“大やられ”の規模が、過去に比べると極端に大きかった。

原因は、投資銀行を中心にデリバティブ取引などが、野放図に行われていたことだ。たとえば、1970年代後半から金利スワップ取引が行われるようになったが、当初は固定金利とLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の単純な交換だった。しかし、90年代になってからは一方はLIBORで、もう一方はWTI(原油)とか株価の下落分とか何でもありの取引が行われるようになった。

要するに、投資銀行は、利益追求のためにあらゆる取引形態をつくりだし、さらにレバレッジをかけて取引額を膨らませ、それも無制限にといった手法を用いるようになった。1990年代後半からは自己勘定でやるプリンシパル・ファイナンスが流行りだし、この頃から投資銀行はリスクの塊かたまりへと変貌して行った。

破碇のもう1つの理由は、アメリカやイギリスなど欧米で不動産バブルが膨らんでいたことだ。投資銀行は価格が上昇する不動産を原資産にして、ABSやCDOなどのいわゆる資産担保付証券を無制限に引き受けた。これに格付け会社が甘い格付けを与えた。