拙著『巨大投資銀行』にもあるが、1970年代後半に引受手数料や金融商品が自由化されて、投資銀行の性格は大きく変容して行った。80年代はいわゆる「ロアリング・エイティーズ」といって、疾風怒濤の時代となり、投資銀行業務はレバレッジをかけるなど、激しくリスクを取るようになっていった。リーマンの破綻などの遠因は80年代にあると思う。

最近、投資銀行というビジネスモデルは破綻したとよく言われる。しかし、債券や株式の引き受け、M&Aは未来永劫消えることのないビジネスであり、投資銀行の仕事が消滅することはない。おそらくアメリカ政府が公的資金を注入して、他の金融機関に吸収されたり、どうにか増資で生き残り、現在の嵐を乗り切って何年か後に健康体となった投資銀行は、また同じようなビジネスを行っているはずだ。

ただ、レバレッジを無制限に利かして巨大なリスクをとるという意味での投資銀行のビジネスモデルが破綻したことは間違いない。

投資銀行各社では今後、人員整理などの大リストラは避けられない。よほど優秀な人材ならば別だが、20代後半で年収数千万円、ボーナス1億円といった時代は終わるだろう。

その反面、優秀なスキルを持っている人材ならば、引く手あまたである。最先端の金融モデルという、いわば世界の最先端ビジネスの創造者ともいうべき会社で鍛えられたのである。製造業など金融以外の業界も、金融というビジネスを避けて通ることができない以上、必要な人材として求められるはずだ。

金融以外の産業界も厳しい状況に追い込まれる。金融危機は、言葉を換えれば信用収縮である。特に欧米で不動産バブルがはじけたことで、不動産投資は世界的に縮小している。日本でも新興不動産デベロッパーの倒産が相次いでいるが、彼らのビジネスに寄り添うように事業を拡大させてきたデベロッパーはかなり影響を受けるだろう。

かつて、不良債権処理に苦しんだ日本と違って、欧米はこうした危機に対する対応は迅速だ。今後3年程度で欧米の金融が立ち直ってくる可能性がある。

98年のロシア通貨危機の際には、アメリカのヘッジファンドのLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)が破綻して株価が暴落した。このときも、投資銀行は何十億ドルもの損失を出したが、すぐに立ち直った。

それどころか、その失敗を糧に変えた。不良債権ビジネスを生み出して利益を上げたのである。97年のアジア通貨危機でも痛手を被ったが、やはり新たなビジネスモデルを考案した。

投資銀行は、新たなビジネスを考えることがビジネスといった性格を持っている。知恵を絞ってさまざまなビジネスモデルをつくりだすというそのスタイルは変わらないだろう。彼らは、常に新たな分野を開拓して、創業者利益を得てきた。この1~2年でいえば、ゴールドマンとかリーマンは原油などのコモディティ商品の取引に力を注ぎ、コモディティ部門を拡充していた。最近では、二酸化炭素排出権取引も始めている。

当面は債券、株式の引き受け、M&Aという投資銀行の基本ビジネスに戻り、リスクテークを制限されるだろう。しかし、彼らは近い将来、必ず新たな姿になって甦ってくるはずだ。

(山下 諭=インタビュー・構成 鷹尾 茂=撮影 AP Images=写真)