酒類本部営業統括本部ビール戦略部部長の田中晃は「いまでも忘れられないのは、私たちが各支店で開発ストーリーを説明し、試飲をしてもらうと、飲んだ社員がみんな『おおーっ』っていうんですよ。これはすごい新商品ができたと確信しました」と、興奮気味に話す。

<strong>田中 晃</strong>●営業統括本部ビール戦略部部長。1959年生まれ。83年学習院大学経済学部卒業、アサヒビール入社。営業担当、マーケティング部、「スーパードライ」プロジェクトリーダーなどを経て、現職。
田中 晃●営業統括本部ビール戦略部部長。1959年生まれ。83年学習院大学経済学部卒業、アサヒビール入社。営業担当、マーケティング部、「スーパードライ」プロジェクトリーダーなどを経て、現職。

田中は数年前、プロジェクトリーダーとして「スーパードライ」の鮮度活動や「うまい!樽生」キャンペーンを経験している。それだけに、いい商品に対する消費者の反応は実感としてわかる。だから「クリアアサヒ」のキャッチコピーである「うまみだけ。雑味なし。」を消費者に体験してもらう戦術に出た。

営業の最前線で行ったのは、これまでにないサンプリングだ。量販店の店頭で、ビール類コーナーで、彼らは「アサヒの新しい味です」と、来店者一人ひとりに250ミリ缶を手渡した。その数は1100万個に達したという。「とにかく、味の訴求を唯一無二の目的にして店頭活動をしました」と、田中は1年前を楽しそうに振り返る。こうした前向きな営業が、1500万ケース達成につながった。

この勢いを駆って、アサヒはこの3月に発泡酒の新商品「クールドラフト」を発売した。東海の言葉を借りれば「消費者が好むビールテースト、つまりキレの“ど真ん中”に位置する発泡酒」ということになる。

「これは『淡麗〈生〉』に真っ向勝負を挑む商品です。私どもの調査では、この発泡酒のファンの中に『スーパードライ』のユーザーが、少なからずいるんです。この人たちをうまい発泡酒で取り返したい。もともと、アサヒが好きな人たちなんですから」(東海)

もちろん、ことはそう簡単ではないだろう。ただ、05~07年にかけて、がむしゃらに新商品を出し続けたアサヒの商品戦略が明らかに変わった。それは会社の体力をも消耗させてしまう乱打戦に決着をつける品揃えができあがったからだ。その意味でこの3年間は、荻田のいう「スーパードライ」の成功体験を取り戻す試練の時期だったのかもしれない。改革はまだ途上だが「スーパードライ」を軸にしたアサヒの“王道”を再確認できた。

長引く景気後退は嗜好品である酒類には逆風だ。どうしてもビジネスマンや主婦の財布の紐は固くなる。これまでのビールから低価格の発泡酒、新ジャンルへの流れは、さらに加速する。キリンとの年間シェアトップの座をかけた争いは過熱しそうだ。だからこそ、3つの分野で戦える体制を築き上げた意義は小さくない。(文中敬称略)

(津藤文生=撮影)