「電力自由化を進めれば停電が起きるのは、子供でもわかること」

さらに、政府が発する節電要請は10年前の東日本大震災などの非常時に出される類いのものだ。連休中で企業活動が止まり、電力消費量が減っているタイミングで出たとしたら、まさに電力供給の「危機的状態」を露呈することになる。

官邸を恐れる経産省は大手電力会社間の電力融通や、石油・ガス業界からのLNGなど燃料確保の自助努力を押しつけた。電力大手幹部はこう憤る。

「こうなったら停電させたらいい。電力改革と称して自由化を迫っていて、停電の懸念が出てくると、『業界で何とかしろ。電力会社は何をやっているんだ』と頭越しにどなりつけてくる。停電が相次ぐ米カリフォルニアなどで明らかになっているように、電力自由化にかじを切ることは、そういうリスクも抱えるということは子供でもわかるはずだ」

加圧ガスタンク
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今、日本は世界最大のLNG輸入国だ。世界的にダブつき、長く価格が低迷しているLNGが、なぜ国内で不足しているのか。原発停止以降、石炭や石油より環境負荷が低いLNG火力へのシフトも進み、国内の発電総量の4割を占めるようになった。原発が止まって使用量が増えているにしても、LNGの調達難は即、電力危機につながるだけにその管理は徹底しているはずだ。

貯蔵期間が2カ月しかないLNGは、石炭や石油に比べて扱いづらい

大手証券アナリストは「これも電力自由化の功罪だ」と指摘する。

気化しやすいLNGは2カ月くらいしか貯蔵できない。このため、一般には2~3カ月先の注文を豪州や東南アジア、米国など産ガス国と交わす。しかし、市況低迷に伴いスポット(随時契約)で調達するほうが長期契約するよりも「この1年ほどは4分の1くらいで買えた」(大手電力幹部)ため、電力各社ともスポット調達に傾斜した。

さらに余分に調達した場合には、2カ月しか持たないLNGを「賞味期限」がきれる前に転売するしかない。現に余ったLNGを売却した九州電力は、昨年度約180億円もの売却損を計上するなど、「貯蔵が利く石炭や石油に比べて扱いづらい」(同大手電力幹部)。自由化でコスト削減に必死の中で、LNGの在庫をいかに抑えるかということは大きな経営課題となる。

そこを寒波が突いた。太陽光も豪雨や日照不足で頼りにならない。となればLNG火力に頼るしかない。だが、ぎりぎりに切り詰めていたLNGの在庫が払底する事態を招いたのだ。九州電力ではJパワーの石炭火力発電所に石油を流し込んで急きょ、発電する慌てようだった。