実行の生産性ではなく革新の生産性を重視する

さて最後に残った「時間」が少々厄介です。なぜならあなたの意識や行動を変えるだけではどうにもならない要素が含まれるからです。あなたの職場(会社)では、効率が重視され、上から与えられた目標をいかにスピーディに達成するかだけに意識が向かっていませんか。生産性を上げるのは経営の鉄則です。しかし、脇目も振らず、確実に目標をクリアする人こそ優秀だ、となってしまうと、新しい試みが生まれない、困った同僚も助けない、後輩も育てない、冒頭に述べたドロドロの組織そのものになってしまうのです。

そういう「実行の生産性」ではなく、むしろ「革新の生産性」を重視するように、時間の概念を変えるべきではないか、と考えています。新しいことを提案し、みんなで可否を検討してGOならやってみる。これを「革新のサイクル」と名づけると、このサイクルを早めることを目指すべきだと思います。

その際に大切なのは各メンバーが高いモチベーションをもっていることです。新しいことを提案する部下のモチベーション、部下から上がってきたものを検討する上司のモチベーション、検討したものを実行する仲間のモチベーション、どれが欠けても、このサイクルをうまく回すことはできません。

組織の壁を越えてこのサイクルが回るのが理想です。部門単位で解決できない問題は、当然、他の部門への働きかけが必要です。大小問わず、革新のサイクルがあちこちで回っている組織がサラサラの組織です。そう、ここで話は最初に戻ってきました。部門を超えて革新のサイクルを回すには、信頼構築から始めなければならないのです。

さて、ここまで、あなたの職場をサラサラの組織に変える方策について述べてきましたが、最後に重要なことを付け加えたいと思います。それは「あなたと会社の関係もサラサラにしよう」ということです。つまり、職場を変えよう、働き方を変えよう、もっと創造的な仕事をしよう、といったことを、すべて上司や会社にお伺いを立ててやらなくてもいいのではないか、ということです。気がついたらやっていた。そのくらいのフットワークの軽さが必要なのです。「私は会社に認められたことだけをやる。ただでさえ忙しいのに、組織をよくするボランティアなんてできない」という主張は一見正論のようですが、実は会社にもたれかかったドロドロの関係を象徴した言葉のように思えます。あなたは会社のために働いているのか、それとも自分のためか。そのバランスがほどよく取れた人がサラサラの組織のメンバーになれるのです。

(荻野進介=構成 ライヴ・アート=図版作成)