「マスク着用率」日本はトップクラスだが…

これまで述べたように、日本ではマスク着用ルールの法制化は行われていない。ただ、国別の「マスク着用率」という統計を見ると、日本は強制力のある規定が導入されていないにもかかわらず、86%と高率を誇る。ちなみに、トップはシンガポールの92%、次いでスペイン(90%)、タイ(88%)、香港(86%)と続く(8月9日時点、英調査機関「YouGov」調べ)。

今回のコロナ禍において、日本人は法整備ではなく「自己犠牲的モラル」で乗り切った自負があるのかもしれない。たしかに、人口比での死者数も米国や英国に比べたら圧倒的に少ないことは評価できよう。

今後、考えるべきは「ウィズコロナの日々における防護策」が客観的に見て妥当か否かにかかってきそうだ。

前述のように、外務省は「レジデンストラック」を導入し、徐々に人の出入りを進める方針を示している。そのほか、東京五輪・パラリンピックの実施に向けて、外国人の競技関係者の訪日を条件付きで緩和する方針も示された。

こうした外国人の受け入れを再開するにしても、「コロナ防護策が国民の任意や善意に委ねられている国へは行きたくない」という意見を持つ外国人がいても不思議はない。インターネット上には、前述のように各国ごとのコロナ対応策を横断的に比較したサイトもあり、基準の厳格さも測れる格好となっている中、「日本でのマスク着用は奨励」と書かれた文字を目にする訪日予備組の外国人はどう感じるだろうか。

「着用のお願い」だけでこの先乗り切れるのか

今回の「マスク着用拒否による緊急着陸」の事件をめぐっては、航空会社への対応や当事者の発言などについて、さまざまな意見が沸騰した。そんな中、一部で「そもそも『マスク着用』を義務付ければいい話なのでは」といった論調を見ることができた。

「コロナ防護策を国民のモラルに委ねる」という形で進めてきたのは、「これぞ日本の素晴らしさ」といえる半面、外国人の目には奇異に映る。

この先、順調にコロナ禍が収縮に向かえば、海外との移動緩和も進み、五輪開催にも目鼻がついてくる。航空機は、文化背景や価値観が違う外国人が日本を訪れるための手段として利用するものだ。こうした航空業界が、「お願いベース」で安全飛行を守り切るという手段は早晩、現実的な対応ではなくなるだろう。

他人からの「要請や推奨」よりも自分の権利を重視する文化に育まれた海外の人々とのやりとりを進めるにあたって、トラブルの温床になる原因は早急に摘み取るべきだろう。ルールの曖昧さを解消し、公平性、透明性のある規則の導入を図る日が来ているのではないだろうか。

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