実用性重視の顧客へ売るためのネックとは

新しいテクノロジーを用いたハイテク製品はどんなに使いにくくても、なぜか購入する顧客は存在する。だが多くの場合、それらの製品の売れ行きはすぐにストンと落ち込んでしまう。

ハイテク製品のマーケティングを展開するうえで、ここに重要な問題が潜んでいる。著書『キャズム』でそう指摘したのがジェフリー・ムーアである。

新しいテクノロジーに基づく製品が市場に受け入れられていくプロセスは図に示すようにベル型のカーブを描く。最初に購入する顧客層は新技術を求める「イノベーター」、先駆者たる「アーリー・アドプター」だ。さらに圧倒的な数を占める顧客層で、実用性を重んじる「アーリー・マジョリティ」、実用性重視だがより保守的な「レイト・マジョリティ」が続き、最後に買うのが無関心層の「ラガード」である。

多くの企業がキャズムを飛び越えられず、主流市場の進出に失敗する
写真を拡大
多くの企業がキャズムを飛び越えられず、主流市場の進出に失敗する

ところがアーリー・アドプターとアーリー・マジョリティの間には大きな溝が横たわっていて、決して連続していない。言い換えると、彼らの顧客心理はまったく異なるということにほかならない。

これがムーアの指摘するキャズムであり、ムーアは長期的なハイテク製品のマーケティングにおいて、キャズムを乗り超えることが最重要課題であると位置づけている。

具体的に述べれば、最初にハイテク製品を購入する人は技術マニアか、自分の抱えている問題が非常に明確で解決策を自ら探している人である。

例えば、かつてNECが販売していたPC9800は完成品の形になってはいなかった。購入して自分で作り上げようとする人は、パソコンマニアや計算機を必要とする人たちであった。

抱えている課題が明確で、解決の手段を探している人たちはいつ、どこにでもいるため、どんなに完成度が低くてもある程度の数は売れるわけである。

しかしイノベーターだけをターゲットにしていても市場は成長しない。市場の成長期には「この製品を使えばこんな問題解決ができる」ことがわかったうえで買うアーリー・マジョリティが顧客層になるのである。

私自身を例にとれば、パソコンが売り出された初期に購入しようとは思わなかったが、「論文を書くのに便利」という機能がハッキリして、かつ使いやすくなった時点で購入した。

つまり製品を市場に投入した導入期と成長期では購入する層が異なるし、製品に対する要求も全然違う。それに気付かず同じマーケティングを行うから多くのハイテク製品は最初にちょっと売れるだけで終わってしまう。これがムーアの主張である。

キャズムにはまった製品やサービスは枚挙に暇がない。最近の事例を考えると、セカンドライフはその一つであろう。

仮想空間内でアバターを介し様々な人々と交流できるほか、仮想通貨を使い現実世界と連動した経済活動を行えることなどから注目を浴びたが、現在日本におけるアクティブユーザーは月間2万3000人にすぎない。

普及のネックとなったのは、パソコンに高いスペックが必要なこと、参加方法や操作の難しさ、「そもそもセカンドライフで何をすればよいのかわからない」という困惑等が挙げられる。

また、タッチパネルを使った新しいユーザーインターフェースで世界中に大きなインパクトを与えた米アップルのスマートフォン、iPhone。2008年7月、日本で発売された当日は販売店に長蛇の列ができたが、しばらくすると日本では販売が期待された水準には達していないと報道されるようになった。

従来の携帯電話との文字入力インターフェースが違う。おサイフケータイなど日本の携帯では定番の機能が搭載されていない。アプリをダウンロードしてカスタマイズできることがかえって慣れていない人には難しい。こうした点がアーリー・マジョリティを獲得するうえで障害になっている可能性が考えられる。

最近、iPhoneの販売は旧機種の値下げや新機種導入で活気づいていると伝えられるが、さらなる普及にはアーリー・マジョリティへの浸透が重要となるだろう。

※すべて雑誌掲載当時