『真実の瞬間』は最初に勤務したホテル時代に読んだ。これまでのホテルはお客様に対してサービスを提供する召使い的存在であったが、真の顧客満足とはお客様と一緒になってつくり上げていくもの。それを実現するには組織のピラミッド構造を逆さまにするべきと説く。つまりホテルで一番偉いのはお客様に接する人間であり、総支配人や社長はそれを支えるベースに位置すべきだという。

これは、現在私の原点となる考え方を示唆してくれた本でもある。

先ほど言ったように過去の延長線上に新しいことは生まれない。経営戦略とは環境の変化の中で経営資源の組み替えをいかに行うかが重要である。その際にできるだけ将来の不確実性の幅を小さくしたいと考えるうえで最適の本が『不確実性の経営戦略』。これ1冊で十分事足りる。『生かし合う企業vs殺し合う企業』の原題は「デジタル時代のエリートのための知恵」という意味だ。この本は競争により相手を倒して無用な血を流すより、お互いが協力し合うことで最大の顧客価値が生まれると主張する。私の多様な判断軸に大変影響を与えた本だ。できれば原文で読むことをお勧めする。

組織の中ではさまざまな摩擦が発生する。私自身、人の憎しみを買い、人間関係がもつれたときに読んで納得したのが『失言する人には理由(わけ)がある』。人はどうして失言をするのか、あるいは不愉快なことを言うのか。じつは失言する人は失言したいと思ってするのではなく、失言をしてしまう環境があり、その環境づくりに私も加担していることがわかった。つまり、失言させている自分に気づくべきであるという。話の終了間際にすごく嫌なことを言う上司がいるが、この本を読むと理解できる。

『祇園の教訓』は京都のお茶屋さんで長年芸妓をしてきた人の、経営者などの観察記録ともいえる本。お茶屋ではさまざまな人が本心をさらけ出すのだが、どんな態度の人がその後伸び、あるいはだめになったかを書いている。たとえば仕事で辛いことがあると、お茶屋に来て周囲に当たりちらし、ハメを外す人がいるが、こういうタイプはだめだという。やはり二面性を持たずに自然体でいくのがいいと改めて思ったものだ。

最後に組織の中の人間関係や不条理さを疑似体験できるのが『課長 島耕作』だろう。悪人も多少デフォルメして描かれているが、日本の伝統的企業や大企業に必ずいそうなタイプが登場する。彼らの考え方、行動はいろんな意味で参考になる。