次の40代前半までの10年間は、自分が関わっている仕事について日本一、いや、世界一になるつもりで徹底して勉強することだ。学者と議論しても負けないほど勉強を重ねる。自動車業界に身を置いていれば、「自動車」と名のつく本はすべて買うぐらいの覚悟が必要だ。並大抵の努力ではない。

アリのように働き、経験を積めば、仕事に関するさまざまな知識を覚えることができる。ただその多くは言葉で表現できない「暗黙知」で、そのままでは概念化できない。そこで勉強を通した「形式知」を得ることで経験と理論が結びつき、トンボのような複眼的な思考を身につけることができるのだ。

私の場合、9年間に及ぶアメリカ勤務と帰国後の数年間がこの時期にあたる。食料畑を歩んだ私は「アメリカの農業については誰にも負けない」といえるだけの力をつけようと、「アメリカ」と名のつく本は農業関係を中心に片端から買い集め、読破した。

駐在中も頼まれて商品市場の記事を日本の新聞に書き、帰国後は一課長の立場で業界誌に「アメリカ農業小史」などの論文を執筆し、学者相手のディスカッションもこなした。アメリカ農務省の最新データと現地での経験を持つ私のほうがはるかに詳しかった。いつしか、「伊藤忠に丹羽という男がいる」と認められるようになっていった。

より重要なのは40代前半からの次の10年間だろう。中枢を担うためのマネジメント力が問われるからだ。経営の神髄は人的資産をいかに運用管理するかにある。とすれば、人間とはいかなる存在か、その本質を知ることにこそマネジメントの原点はある。それはどうすれば知ることができるのか。