会計500年の波乱万丈ストーリー

会計には様々なルールがあるが、それがいつの時代になぜつくられたのか。例えば「減価償却」。これを初めて採用したのは、蒸気機関車の発明によって誕生した19世紀イギリスの鉄道会社だ。

公認会計士 田中靖浩氏

当時、リバプール・マンチェスター鉄道に投資した人はかなりの儲けを手にした。この成功に刺激を受け、イギリス各地で雨後の竹の子のように鉄道会社が設立され、株で「ひと儲けしたい」という株主も増えていった。しかし、鉄道会社の場合、初期投資に莫大な費用がかかるうえ、固定資産が多いため、特に創業当初は儲けを計上して株主に配当するのは容易ではない。

そこでどうしたか。「彼らは『機関車は長期的に使用するものだから、長期的に費用計上するのが合理的である』という理屈をこしらえ、費用を平準化したのです」と田中靖浩氏は解説する。つまり、株主に安定的に配当するために新しい会計ルールをつくってしまったわけだ。

「減価償却の登場は、500年に及ぶ会計史の中でもイタリアの簿記の誕生に匹敵するような重要なターニングポイントといえます。なぜなら減価償却によって会計上の儲けは収支から離れ、『利益』というかたちで計算されるようになったからです。これによって、現金主義会計(収入-支出=純収入)から発生主義会計(収益-費用=利益)へと移行したのです」