かつて、電力、ガスといえば、公益企業で、安定した産業の代表であった。そのエネルギー産業をめぐる経営環境も、また激変の真っただ中にある。

「旧来長く続いていた電力だ、ガスだ、石油だと、それぞれの分野で仕事をしていればいい時代が、完全に終わっているということでしょうね」

<strong>東京ガス社長 岡本毅</strong>●1947年9月23日、京都府生まれ。70年、一橋大経済学部卒、東京ガス入社。2004年、企画本部長。07年、副社長、10年4月、現職。
東京ガス社長 岡本毅●1947年9月23日、京都府生まれ。70年、一橋大経済学部卒、東京ガス入社。2004年、企画本部長。07年、副社長、10年4月、現職。

東京ガスの岡本毅は、上品な物腰に似合わず、胆が据わっている。東京ガスの強みは、海外のガス田、液化プラント、それを運ぶLNG(液化天然ガス)タンカー、パイプライン、そして最終顧客までを一貫して結ぶLNGバリューチェーンである。「最前線では1060万件のお客様と直接つながっていて、毎日、あるいは毎月のように、業務上のお付き合いがある。このような産業は世の中にほとんどない」。

東京ガスが目指すのは「天然ガスをコアとする総合エネルギー事業」。このバリューチェーンを活かす当面の施策は2つある。一つは供給能力の増強であり、もう一つは最前線のサービス力の強化だ。東京ガスには、茨城県日立市にLNG基地を建設し、そこから栃木県真岡市までパイプラインを引く計画がある。

「現在、我々のガス販売量は約140億立方メートル。関東一円を視野に入れたとき、さらに90億立方メートルくらいの潜在需要があるとみている。いまのインフラではおおよそ180億立方メートルが供給上限。2015年に日立基地を完成させて、20年代には180億立方メートルを超える成長を目指していく」

しかし日本国内は、経済の成熟化と省エネ機器の普及で、トータルとしてのエネルギー需要は増えないのではないか。

「石油系燃料からの転換が需要増につながる。それにコージェネレーション・システムを導入することによる電力需要の取り込みもある」と、その目算を語る。

一方、小口需要家向けには、従来の営業体制をリニューアルし「東京ガスライフバル」を立ち上げた。「家庭用、あるいは中小業務用のお客様に対して、ガスに関する仕事は全部そこで間に合わせるようにする」のが、狙いである。いわば、ガスのワンストップサービスだ。