社員による「不祥事」が起きた時、企業はどう処分を下すのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「企業は関係者から綿密にヒアリングして情報を集めます。そのうえで本人に尋問する。雰囲気は重苦しく、途中で泣き出す人もいる」という――。
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「社員の不祥事」で会社が静かに下す処分のプロセス

企業の不祥事は今や日常茶飯事である。

最近では、背任容疑で逮捕された日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告をはじめ、銀行の不正融資や住宅メーカーの違法建築問題などが話題になった。また、社員が性的暴行事件や児童買春事件などの刑事事件で逮捕され、メディアに報じられることもある。

報道されるのは犯人・容疑者が大企業や知名度の高い企業の社員のケースがほとんどだ。「どうしてあんな大きな会社の社員が……」と、世間の耳目を集めやすいからだろう。

じつはメディアで取り上げられず、表に出ることがない社員の犯罪も多く発生している。

企業側はそうした犯罪や不祥事が事業活動に支障を与えることのないよう、また企業に損害を与えることのないように「規定」を設けている。未然防止の方法や事後の処罰に関するルールだ。

セクハラ、パワハラ、サービス残業強制……

どんな犯罪にどんな罰則を下すのか。それを定めたのが企業の法律である「就業規則」だ。罰則には一番重いものから懲戒解雇、諭旨解雇、出勤停止、降格、減給、譴責(けんせき)などがある。

懲戒解雇は刑法その他の刑罰規定の行為に該当する行為をし、その犯罪事実が明白なときに適用される。新聞に児童買春で社員が逮捕された記事が載ることがあるが、会社のコメントとして「厳正な処分を下します」という言葉が出てくる。厳正な処分とは「懲戒解雇」を意味することが多い。

では、実際にどのような犯罪・不祥事が社内で起きているのか。大手食品メーカーの法務担当役員はこう語る。

「会社の金を着服したり、取引先からお金などの便宜供与を受けたりする不正はたまにありますが、最も多いのはハラスメント系と労務管理系のトラブルです。ハラスメント系で最も多いのはパワハラ、続いてセクハラ。労務管理系では『サービス残業を強制された』という告発もあれば『不当な人事異動をさせられた』という告発もあります。最近多いのは取引先とのトラブルです。取引先の情報をネットで流したとか、酒席で暴行したという案件もありました」