GAFAと逆張りの戦略

キーエンスの場合は、あえてアップルやアマゾンとは真逆の戦略をとっているのではないか、というのが筆者の見立てだ。

つまり、外注先に代金をすぐに支払ってあげることは、資金繰りがきびしい外注先にとっては非常にありがたい話だ。その代わり、キーエンスは価格面の交渉で優位に立てる。

また、顧客企業に対しては商品を先に納入し、代金の支払いは3カ月後でもいいという条件にすれば、資金繰りがきびしい顧客企業にとっては非常にありがたい話だ。その代わりに、キーエンスは価格面の交渉で優位に立てる。

この戦略により、売値をより高く、外注費をより安くすることができ、利益率をさらに引き上げることができているのではないだろうか。

ただし、この戦略は並の会社は絶対にマネしてはいけない。あっというまに、自社の資金がショートしてしまうからだ。このような戦略は、キャッシュが非常に潤沢にあるキーエンスだから成せるわざだ。

経営の観点から見ると、2015年に創業者の滝崎武光会長が設立40周年を機に第一線から退いた。

カリスマ創業者が退任したとたん、経営がおかしくなる会社は枚挙にいとまがない。キーエンスもどうなることかと世間は懸念していたが、退任から4年たっても経営上にまったく影響はなく、冒頭で説明したとおりに業績は右肩上がりだ。社員の平均給与も、退任当時は1600万円程度だったのが、いまや2000万円超えである(図表7)。

キーエンスに死角はまったく見当たらない。

川口宏之(かわぐち・ひろゆき)
公認会計士
監査法人での会計監査、ベンチャー企業での取締役兼CFOなどを歴任。現在、上場企業の社員研修や各種団体主催の公開セミナーなどで、「会計」をわかりやすく伝える人気講師として活躍中。著書に『決算書を読む技術』『決算書を使う技術』(共にかんき出版)、『いちばんやさしい会計の教本』(インプレス)がある。公式サイト
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