社会性も身につかぬまま放り出されたわけです

今でこそ超高学歴の奨励会員も少なくありませんが、当時は中卒が大半。将棋しか知らず、社会性も身につかぬまま放り出されたわけです。

でも、A氏は将棋連盟職員として今は現役奨励会員の“世話役”です。B君は指導棋士と将棋の記事の執筆を。ブラジルで結婚したC君は現地の将棋の指導員です。彼らのように将棋に関わり続ける者がいる一方、すっぱりと将棋との縁を切ったり、猛勉強の末に公認会計士や司法書士になった者も。ただ、退会者のその後の情報は極めて少ないですね。アマチュア強豪として活躍していれば、まだわかるのですが。怒り狂っていた僕の父親も、囲碁好きのせいもあってか、いつの間にか「おまえはすごい」と一目置いてくれるようになりました。人生わからないものです。

奨励会のような過酷な場にいたとしても、その経験が先々どれほど役に立つかはわかりません。結局、親は黙って見守るしかない。子供の挫折を自分の挫折のように捉え、がっかりする親がいますが、僕は子供と挫折を共有したくありません。

もし僕の子供が挫折したとしても、それは本人が解決すべき問題なんです。何か特別な金銭的フォローも必要ないと思うし、何かアドバイスしようにも、親は教育者である師匠とも違う。もっと大きな立ち位置にいるんじゃないでしょうか。

誰にでもモラトリアムは必要ですし、いつ終わるかは人それぞれ。モラトリアムが終わってからはじまる人生もきっとあると思うんです。

打つべき一手:黙って見守ろう。親子で挫折を共有しない

大崎善生
作家
1957年、北海道生まれ。「将棋世界」編集長を経て2000年、『聖の青春』で作家デビューし新潮学芸賞。01年、『将棋の子』で講談社ノンフィクション賞。『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』ほか。
(構成=篠原克周 撮影=石橋素幸 写真=日本将棋連盟)
【関連記事】
うつ病の25歳が障害年金受給を拒むワケ
"教室カースト"底辺の子の親がすべきこと
平凡な子ほど"地元の個人塾"で化けるワケ
"頭のいい子を潰す"熱い親のヤバい声かけ
アパ社長が"勉強するな"と息子を叱るワケ