大きな地位を占める「一人のガリバー」基軸通貨ドル

このように多数の国によって固定されている通貨が基軸通貨と呼ばれる。第二次世界大戦後から71年8月15日のニクソン・ショックまで世界の国際通貨体制としてブレトンウッズ体制が採用されていた。ブレトンウッズ体制は金ドル本位制と呼ばれ、アメリカ政府はドルと金の交換比率を固定する一方、世界中の他の国々の政府は自国通貨とドルの交換比率を固定するというものであった。このような金ドル本位制の下では、世界中のすべての国々の通貨がドルに固定されていたことから、ドルが唯一の基軸通貨と見なされ、ドル基軸通貨体制とも呼ばれていた。

ブレトンウッズ体制が崩壊し、総フロート制の下で、ユーロが導入された99年以降、ドルのほか、ユーロを中心として、ユーロ圏を形成する国々およびユーロに為替相場を固定する国々が、EUの東方拡大に伴い、EU諸国の中で増加してきた。さらには、拡大EUの周辺国においてもユーロに為替相場を固定する国々が増加してきた。このように、ドルのほかユーロを含む、複数の基軸通貨が存在する通貨体制を複数基軸通貨体制と呼ぶことができる。

しかしながら、複数基軸通貨体制といっても、基軸通貨ドルと基軸通貨ユーロが同等の状態にあるとはいえない。ドルがほとんど世界中で国際的決済通貨として流通しているのに対して、ユーロはEUを中心としたヨーロッパという地域における基軸通貨にすぎない。その意味で、現状では、複数の基軸通貨が存在するものの、ドルが極めて大きな地位を占める基軸通貨となっていることから、一人のガリバーと多数の小人を意味する、ガリバー型基軸通貨体制といったほうがいいだろう。