被害者の供述だけが、信用されがち

2019年1月、3年前に再審で強姦罪で無罪となった男性が国に損害賠償を請求したが、大阪地裁で棄却された。男性は結果的に計6年間身柄を拘束されたが、無罪となったきっかけは、被害女性が「自分の証言は嘘だった」と男性の弁護人に告白したことだった。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/lechatnoir)

被害者の虚偽供述で、無実の人間が罪に問われて人生を奪われる。まさしく悲劇だが、怖いのはこれが氷山の一角にすぎないことだ。数々の冤罪事件を手がけ、現在放映中の冤罪事件ドラマのモデルにもなっている今村核弁護士は次のように明かす。

「裁判所は、被害者はほとんどは嘘はつかないという前提で判断する。後に被害者が嘘を告白したこの事件も、裁判所はルーチンで判断を下しただけ。この事件の陰には、数多くの冤罪事件が潜んでいます」

裁判所が定型的に仕事をしていることがよくわかるのが判決文だ。

「痴漢冤罪が話題になり始めた2000年前後、研究会で50件以上の有罪判決を集めて分析したことがあります。その結果、ほとんどが『被害者の供述は具体的かつ詳細で、体験したものでないと語れない迫真性がある』『被害者に、あえて嘘をついて被告人を陥れる動機がない』という定型文でした。表面的なところだけを見て判決文を書いているのは明らかです」

痴漢を疑われたとき「すいません」は禁句

被害者の供述だけで有罪にされるといえば、痴漢冤罪もそうだ。身を守る方法はあるのだろうか。今村弁護士は悲観的な見方だ。

「痴漢冤罪には、刑事裁判制度の構造的問題が表れている。個人で身を守るのは難しい」