年上の客にもタメ口で接客し、平然と注意もするのに、なぜか客足が途絶えないモツ焼き店がある。マーケティングに詳しい本間立平氏は「店が味に絶対的な自信を持っているから、お客さんを“指導”できるのだ。これからは客に従う時代から、客に従わせる時代になる」と説く。このモツ焼き店が好かれる理由とは――。

※本稿は、本間立平『電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ。』(大和書房)の一部を再編集したものです。

鮮度抜群のモツを求めて客が集まる

ある繁華街に、私がよく行く、人気の「モツ焼き」のお店があります。「モツ」とは、「臓物」、つまり「内臓」のことで、主に豚のレバーや、心臓、腸などの串焼きを食べさせるお店です。モツは鮮度が命です。「朝挽き」というのをご存じでしょうか。朝までブーブーと鳴いていた豚さんを、その日のうちに提供することをいいます。そのお店も鮮度がウリで、仕入れたモツはその日のうちにすべて使い切ります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/JianGang Wang)

この店、以前は「モツ刺し」を提供していました。しかし、数年前のある焼肉チェーンが引き起こしたユッケ事件を発端に、「生食禁止」が厳格になり、「刺し」は提供できなくなってしまいました。それでも人気は変わりません。毎日、鮮度抜群のモツを求めて、夕方の開店とともに客がなだれ込み、ものの5、6時間で売り切れてしまうほどなのです。

山積みの商品はなぜ売れるのか

私は、この店の「品切れの伝え方」が非常に巧みであることに、以前から注目していました。「レバー」「タン」「ハツ」というように、メニューが一品ずつ木の札に書かれており、それが壁にずらりと並べてぶら下げられています。一品売り切れると、その札を裏返して、お客さんに品切れになったことを伝えます。表が「黒字」、裏が「赤字」になっており、閉店が近づくにつれ、最初は黒一色だったお品書きが、どんどん赤色に染まっていきます。

「いらっしゃい! 赤い札は売り切れだから、黒い札のやつを頼んでね!」

客は、壁のお品書きを見れば、何が残っているのか、一目瞭然です。それだけでなく、黒字がどんどん赤字に返されていく様を見て、「なくなる前に、あれも食べておこう」という気にさせられます。遅くから来た客が、すでに黒字札が少ないことに焦りを感じ、「残っているの全部1本ずつください!」と、すべての品をオーダーするのもいつもの光景です。このお店は、お品書きで<売れ行きの可視化>をしています。

店頭実験で、セールでの「山積みの効果」を観察していたときに、この「売れ行きの可視化」の力を思い知りました。100個ほどの特価商品を山積みにし、売れていく様子をウォッチします。最初の10~20個くらいは、慎重なせいか、売れるスピードはそれほど速くありません。

ただ、商品の山が少なくなってきて、残り50個くらいになると、売れ行きが加速していきます。買い物客の人だかりが発生し、残りが10個程度になると、隣の客に買われてはならぬと、誰もが、われ先にカゴに入れ、瞬時に品物がなくなります。どんどん減っていく商品と、他の買い物客の存在が、「煽り」の効果を生むのでしょう。