ドル化が進めば進むほど金融政策は効かなくなる

このように、トルコは資産防衛がしやすい環境にある。今般の通貨危機でも、多額の外貨預金の存在がリラ下落の悪影響の緩衝材として機能したと言えるだろう。一方で、ドル化の加速によって、別の深刻な問題が出てくる恐れがある。つまり、中央銀行による金融政策運営が難しくなるという看過できない問題だ。

中央銀行による金融政策は、通常、国内金利を通じて行われる。ドル化が進んでいる経済だと、金融を緩和するにせよ引き締めるにせよ、国内金利を通じた政策が効きにくくなる。ドルが利用されているため、経済活動が国内金利だけではなくドル金利にも依存するためだ。当然ドル化が進めば進むほど金融政策は効かなくなり、やがて機能不全に陥る。

国内通貨への信認が回復しない限り、ドル化を改善することはできない。リラへの信認を回復させるためには、エルドアン政権による経済運営が正常化する必要がある。しかしながらエルドアン政権による経済運営は正常化するどころか、ますます混乱の色を強めている。

2018年9月25日、トルコのエルドアン大統領(右)と握手し会談に臨む安倍晋三首相(アメリカ・ニューヨーク)(写真=AA/時事通信フォト)

選挙に勝つために「バラマキ」に走る可能性が高い

例えばエルドアン政権は9月4日、トルコの輸出業者に対して、取引先から支払われる輸出代金が外貨の場合、最低でもその80%を国内の銀行に売却してリラに両替させることを義務付けた。半年間の時限措置ではあるものの、輸出業者に強制的な両替を課すことで、リラを買い支えさせようとしたのである。

ただ材料や部品などの輸入依存度が高い製造業の場合、輸入品の決済には当然外貨が用いられる。したがって、取引先から外貨で支払われた輸出代金をリラに両替しても、輸入代金を支払うために再度外貨に両替しなければならず、いたずらにコストが膨らむ事態をもたらしている。

トルコは来年3月に統一地方選挙を控えている。政権の信任が問われるこの選挙に、エルドアン大統領率いる公正発展党(AKP)は何が何でも勝利しなければならない。

そのため、エルドアン政権はバラマキ色の強い政策を年末にかけて打ち出してくるのではないかという観測が高まっている。特に景気悪化を受け資金繰りに窮する中小・零細企業(その多くがエルドアン大統領の支持者層)に対して、何らかの支援策が採られる可能性が出てきている。