リラ下落を受けて「ドル化」が進むトルコ経済

トルコリラ安が続いている。対ドル相場の年初来下落率は一時約40%に達した。直近では下落には歯止めがかかっているが、いま市場は10月12日のトルコ政府の動きに注目している。

トルコ政府は米国人牧師を長期拘束しており、この日に解放するかどうかが決まるからだ。市場はエルドアン大統領が対米関係の改善を優先させ、牧師を解放するとみている。だが予想に反して解放されなかった場合、リラ相場はさらなる下落を余儀なくされる。それは世界的な通貨危機の引き金となる恐れがある。

日本人が聞きなれない経済現象のひとつに「ドル化」というものがある。自国通貨への信認が低い経済では、貯蓄や決済の手段としてドルやユーロ、円といった信用力の高い外国通貨が利用される。程度の差はあれ、新興国では一般的にこうした状況が生じている。日本でも外貨で資産を形成する人々が増えているが、まだ少数派だ。

通貨危機にさいなまれているトルコでは、近年このドル化が急速に進んでいる。経済全体に広まっているマネーの量をはかる指標として、貨幣供給量というものがある。最も定義が広い貨幣供給量に占める外貨預金の比率は、トルコの通貨リラの下落とパラレルな形で上昇していることが分かる。

モバイルバンキングが発達しているトルコでは、預金口座を通じて外貨や金を容易に購入できる。近年のリラ下落を受けて、預金者は資産を防衛するために、リラ建て預金を外貨や金建ての預金に変えてきた。その結果、リラの下落と歩調を合わせる形でドル化が進んでいるのである。

イスタンブールでは米ドルで何でも購入できる

トルコは過去にも高インフレや通貨危機を経験しており、人々のリラに対する信認はそもそも弱い。また1960年代からはドイツなど西欧に出稼ぎに出た労働者(ガストアルバイター)も多くなり、そうした人々からの送金もまた外貨で行われた。つまり、外貨に触れ合う機会は元から多かったと言える。

筆者は10月初旬、通貨危機の影響を調査すべく、トルコ経済の中心地イスタンブールを訪問した。食料品の購入で米ドルでの支払いを試みたが、問題なく利用できるとともに、市中のレートが反映された交換レートが提示された。人々が外貨の利用に慣れていることの証左と言えよう。

またイスタンブールのバザール「カパルチャルシュ」にあるプロ向けの両替交換所で話を聞いたところ、リラ安に伴うドルの需要が強過ぎて、取引そのものが停滞しているとのことだった。エルドアン大統領の支持者はその呼びかけに応じてドルを売った模様だが、大多数の人々は資産防衛のためにドルを買い、持ち続けているということだろう。