5、6年前、経済界やメディアで「リストラか終身雇用か」の論争が続いた。そのとき、代表的な「雇用派」だった。「横並びの年功序列はよくないが、長期雇用で安心して仕事に打ち込めれば、その道のプロになれるし、生活設計も安定する」。この主張は、モノやカネと同様にヒトまで減らすことが「いい経営」とする風潮のなかで、少数派だった。

だが、大分県南部の半農半漁の地・蒲江に生まれ、みんなが助け合い、寄り添って暮らすなかで育った身には、自然に「共同体意識」が染み込んだ。経営者として評価を高めた事業の「選択と集中」も、赤字の事業を続ければ、ほかで頑張っている仲間の足を引っ張るだけだ、との主張に、説得力があったからだ。

「朝は、召使より早く起きよ」――江戸時代後期の画家、思想家として名を残した渡辺崋山の『商人に与う』にある言葉だ。その後に「十両の客より、百文の客を大切にせよ」「買い人が気に入らず返しに来たときは、売るときよりも丁寧にせよ」などの教えが続く。崋山は、三河田原藩の改革にあたり、家ごとに石高によって給付を決めた固定的な家禄制を廃止し、藩士の職務によって支給する「職務制」にするよう提案した。当時としては画期的な案すぎて、守旧派の猛反対で挫折した。いま、キヤノンなどが導入している給与制度「職務制」に重なる。

そう言えば、御手洗さんは毎朝4時に起きている。そして、持ち帰った書類に目を通す。「早朝のほうが、頭によく入る」。受験生たちが、何度も言われることだ。08年12月16日、冒頭の報告が公表される。師走も、経団連会長の早起きが続く。

(撮影=奥村 森、芳地博之、尾関裕士)