「知識だけでは人は絶対に動かせません」

──世界のメジャー相手の競争に勝つために、安永社長が考える優秀な人材とはどんな人でしょうか。

一言で言えば「場の支配力」を持っている人間です。ビジネスの戦略を決めて、それをアクションプランに落とし込み、自分の周りの人を動かし、場を自分流につくり上げ交渉を仕切る力を持っていること。これは修羅場や土壇場を経験して初めて身につくものです。一番いいのは客先に飛び込んでいくことです。そこで知識ではなく智恵を身につけ胆力を養う。知識だけでは人は絶対に動かせません。最近ではセキュリティの問題などもあり東京では飛び込み営業が難しくなりましたが、地方では厳しいお客さんのところに若手社員が飛び込んで身をもって学べる環境がまだ残っています。冷や汗をかくこともあるかもしれませんが、真剣勝負に身をさらすことで、覚悟と責任感が生まれます。また海外でも、新興国の熱気あふれる若者の中で揉まれる経験を積ませることができます。頭が柔らかいうちに、修羅場や土壇場を経験させることで、プロ意識を持った強い「個」になってもらわないといけない。そのために、三井物産で長年行われている修業生制度を含めた若手の海外派遣制度を再整備しました。

──ご自身のレベルアップを図るために実践したことを教えてください。

私は若いうちから自分が責任者だったらどうするかを常に考えながら仕事をしていました。そして、30代の課長代理の頃には部長のつもりで交渉事をまとめていました。というのも交渉の席で「東京(の本社)に聞いてみる」と言った瞬間、「話ができる相手を連れてこい」ということになる。それでは仕事は進まないし、自分の成長にも繋がりません。とはいえ自分の権限を超えたところで仕事をするには、どこまで踏み込んでよいか、どこまで譲歩してもよいかといった「ネゴ代(のめる条件の幅)」を事前に把握しておかねばなりません。契約上の条件が複雑に絡んでいる案件では「星取り表」をつくって、相手にAを取られたらBとCを抱き合わせでのませて最後は相打ちにするぞ、といった細かい交渉プランまで頭に叩き込んで臨む必要がある。当然社内に応援団が必要で、交渉に臨む前に綿密な準備を社内で行っておく必要がある。そういうことを若いときからやることで、人を動かし、場を動かす智恵と胆力が鍛えられました。

──その安永社長にとって、今の人材を評価する基準とは?

重要なのは仕事にオーナーシップ(主体性)を持つことです。自分が担うべき役割を理解していて、時間通りに成果をあげ、結果責任を果たすこと。職種や年齢を問わずこの主体性を持っていれば、評価に値します。