人が判断を下すとき、まず働くのが図のシステム1。その判断は瞬時に下される。生き残りをかけて磨かれてきたのがシステム1であり、自然のなかでは一瞬の判断の遅れが命取りになるからだ。そんなシステム1の結論を覆すためには、一度立ち止まって、熟考するシステム2を働かせなければいけない。しかし、さまざまな条件がシステム2の働きを妨げる。たとえば、時間的な制約があり、判断が急かされるとき、システム2はなかなか機能してくれない。

セイラーの同志にあたるダニエル・カーネマンもまたノーベル賞受賞者だが、そのカーネマンも「バイアスを完全に取り除くのは不可能だ」と語る。

希少価値の高いものに飛びつく理由

子どもの教育のため、自分の老後のため、あるいはもっとほかの理由で、どうにかして貯金を増やしたいというのは当然の心理。さまざまな金融商品が生まれる昨今、ネットを見れば新しい資産運用法で儲けた人の体験談や、「このやり方なら確実に儲かる。競争相手が少ない今が勝負」などという売り文句も見かける。

そんなフレーズを見たときに、ついつい誘惑に駆られるような思いをしたことはないだろうか。

しかし、それはスーパーのタイムセールに飛びついてしまうのと同じ心理だ。

「『期間限定』という言葉は、強い強迫観念をもたらします。自分の目の前にあるものが、今は手に入るけど、時間がたつとなくなってしまう。そう感じたとき、どうしても手に入れなければ、と考えてしまうのが人間です。この衝動は空腹感と関係があります」(友野教授)

人類は常に食料難と戦ってきた。それにより、食料が目の前にあると飛びついてしまうのが人の性。そして、この本能が働くのは食料に限らない。自分にとって「価値が高い」と感じるものや、希少性の高いもの、なかなか手に入らないものについても欲しくなってしまうのだ。

それはまさにシステム1が全力で稼働した結果だ。空腹感と物欲。一見関係なさそうにも思える両者だが、希少価値という点では、同様にシステム1に訴えかける。あるいは、「周りがみんな始めたから」という同調圧力も、システム2の働きを阻害する。

一呼吸おいて、冷静に考えてみれば「儲かった」という話にしても、その金融商品に手を出した人の母数が考慮に入っていないことがわかるはず。儲かったのは1000人に1人かもしれないし、1万人に1人かもしれない。

さまざまなバイアスを排し、客観的な統計データから考えれば、短期の投資は運でしかなく、はやりに飛びつくのではなしに、長期の分散投資が正解だという判断にたどり着けるはずだ。