鯖寿司の食べ方がきちんと浸透していなかった

あるとき、昔から「いづう」の鯖寿司をご愛好いただいているお客様から、「本店で買った鯖寿司のほうがおいしかった」というご意見をいただくことがありました。

これは誤解される方も多いのですが、本来、鯖寿司は出来立てを召し上がっていただくよりも、完成後数時間から1日程度寝かしていただいたほうが、巻いてある昆布の出汁が染み込み、鯖もシャリもほどよく硬くなり凝縮されたうま味が感じられるのです。

ですが、そのお客様のご意見を伺ったとき、ひょっとしたら、私の考えが間違っているのかもしれないと「ハッ」とさせられたのです。

その真偽を確かめるため、私は講師としてお招きいただいた料理学校での催しとして「出来立て」の鯖寿司と「1日寝かせた」鯖寿司の食べ比べを実施してみました。しかし、その結果は7割のお客様が「1日寝かせた」鯖寿司のほうがおいしく感じるというものでした。

それでは先のお客様が感じられた味の差とはなんだったのでしょう。これは私の推測にすぎませんが、わざわざ本店までお越しいただいたという点と江戸前寿司などと同じく「出来立て」「新鮮」が一番という誤った価値観が影響したのではないか、と考えるに至りました。

しかし、先のお客様のご意見は、おいしく鯖寿司を召し上がっていただく方法がきちんと浸透していないという、課題に気がつく大きなきっかけとなりました。

私たちが目指すところは、効率主義に則って、店舗を増やしたり、世間を驚かす新商品の開発などでは決してありません。ただ今「いづう」の鯖寿司を心待ちにしてくださる皆様においしい鯖寿司をいつまでもお届けし続けることです。

佐々木勝悟(ささき・しょうご)
いづう 代表取締役8代目社長
大学卒業後、大阪の名店で3年間修業の後、現職に。現在は板場に立ちながらも郷土寿司の研究や料理学校の講師など京都の食文化のPR活動に精力的に取り組む。
(構成、撮影=本誌編集部(田代健太) 写真提供=いづう)
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