サラリーマンはいつ独立するべきか。編集者として『宇宙兄弟』など数々のヒット作を担当し、33歳で独立した佐渡島庸平さんは「多くの会社員は40歳くらいで成長のスピードがゆるやかになっていく」という。バンダイで「∞プチプチ」などのヒット商品をつくり、35歳で独立した高橋晋平さんは「このままだと自分の成長速度は遅くなるかもしれない、と思ったから辞めた」という。ただし2人は「自分の才能を過信しないほうがいい」とクギを刺す。2人の対談記事をお届けしよう――。(第1回、全3回)

※佐渡島さんの発言を一部修正しました(5月23日、編集部追記)。

佐渡島庸平さん(左)と高橋晋平さん(右)

「自分も金を出したい」ものしか売れない

【高橋】佐渡島さんは『宇宙兄弟』などたくさんのヒット作を編集者として担当していますが、本の企画はどうやって立てるんですか? 著者の「これを書きたい!」と、編集者の「これがウケそうだ」では、どちらを重視しますか?

【佐渡島】両方あります。高橋さんの近著『一生仕事で困らない企画のメモ技(テク)』みたいな単発のビジネス書では後者ですね。でもマンガや小説だと、連載が何十年も続く可能性がある。作者が「これを書きたい!」と思わないと続けられないんですよ。だから編集者としては「普遍性があるかどうか」を気にします。

【高橋】普遍性ですか?

【佐渡島】以前、後輩の編集者がある作家の原稿を読んで「今回はおもしろいです!」って書籍化の企画をあげてきたんで、僕はこう言ったんですよ。「お前、ひと月に数冊しか本読んでないみたいだけど、この本はその中の1冊に入るの? 金を出して買う?」。すると「買わないです。仕事として無理やり読まされるなら、おもしろいですけど……」って。それを作家に伝えるのがお前の仕事だろう、と。

【高橋】本当にそうですよね。自分が買わないのに、誰かが買うわけがない。

【佐渡島】サラリーマンは、給料が毎月自動的に入ってきますよね。だから、お金のことを意識せずに企画するきらいがある。そういう人って、たとえば「新しい!」だけで企画を一点突破しようとするでしょう。でも本来は、お客さんが納得して財布のひもを緩めるかどうかがすべてであって、それ以外は遊びごとなんですよ。人の心が動くというところまで責任を持てるかどうかが、企画者として大切なことだと思います。

辞めるのは成功体験を積んでから

【高橋】僕は3年半前に会社を辞めましたが、もし会社にいたら、今ごろどうしていただろうって考えることがあるんですよ。今だから言えるのかもしれないですけど、上司に怒られてもいいから、なんらかの方法でとりあえず企画を世に出しちゃって、それでファンがついたらそれでいいじゃんって考え方をしたかもしれないです。

【佐渡島】今はネット上で自分のアイデアを試せますから、話題になるかどうか試せばいいんですよ。

【高橋】会社に所属した状態で、ですね。

【佐渡島】そうです。自分の企画が社内で理解されないと不満な人は、そうやって世に出して試してみればいいんです。それで世間もしーんとしていたら、完全に自分が悪い。たぶん99%くらいの人が、自分が悪いのに周囲、つまり会社が悪いって言っているだけですからね。