古株に社員教育をやらせるのは愚かなこと

大規模リストラに乗り出した百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスが新設した早期退職制度では、退職金に最大5000万円の加算金が上乗せされるという。早期退職の対象になるようなフロアマネージャーは学卒の正社員というだけで大きな顔をしているが、商品知識は現場で応対している女性の派遣社員のほうがよほど持っている。そんな役にも立たない社員を1人クビにするのに、1億円近くかかる。今や日本は世界で最も社員をクビにしにくい国だ。

しかもそういう人材をドイツのように再教育して新しい仕事に適応できるようにしようにも、頭の中は百貨店の仕事を覚えた20年前のまま。バイマやメルカリが登場して百貨店の存在意義が問われている時代に、再教育できないくらい頭の中がフリーズしてしまっている。

かつては「学校で習ったことは社会では役に立たない。会社に入れてから再教育すればいい」と言われた。日本的経営における教育システムだったわけだが、それが今や通用しない。会社は十年一日の社内教育を行っている。ビジネス文書の書き方とか英文レターの書き方とか簿記の基礎とか、一生懸命教えているのだが、そんなものは全部ネットで引ける。問題はそこから先で、変化を続ける21世紀の経済に頭がついていけるように教育しなければならないのだが、そこでは従来の社内教育はまったく役に立たない。

私は自分がコンサルティングしている会社で「新人教育は去年入った社員にやらせろ」と言っている。古株に社員教育をやらせると20年前の仕事のやり方を、これから20年活躍してもらう人材に教えることになる。

それでは話にならない。

なんなら古株を集めて新人に教育してもらったほうがいい。スマホの使い方とか面白いアプリのインストールの仕方を教えてもらったほうがよほど役に立つし、社内に緊張感も生まれる。

1度社会に出た人が再び学校に入り直して新しい知識やスキルを学ぶことを「リカレント教育」という。私は長年リカレント教育に携わってきたが、政府もようやくその重要性に気付いて5000億円の予算を付けるという。

ところが大学に戻っても21世紀のことを教えられる人が教育現場にはいない。人材の再教育はできれば10年に1度、少なくとも20年に1回はやらなくてはならない。大学を出たままで一生暮らしていけるような時代ではないし、社内教育でそれができる時代でもない。21世紀を生き抜く人材を育成する、あるいは再教育するシステムを早急に構築できなければ、日本も日本の企業も「置き換え」の波間に沈みゆくしかない。

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(構成=小川 剛 写真=AFLO)
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