飲食店では、当たり前のように、「客を注視しろ」と教える。だが、王将では指示が具体的だ。

「客の頭が左右に動いているときは要注意」と教える。そうした表現ならば、新人のアルバイトでも理解できる。王将の朝礼には精神論はない。誰もがすぐに真似のできる実践的な教えを伝える場なのである。店長の小平は語る。

「僕は高校生のとき、王将でアルバイトしていて、先輩がいろいろ教えてくれたので入社しました。そのときの夢はいつか店長になって、お客さんが詰めかけるような店をつくることだった。仙台に来てその夢が叶った。だから忙しいなんて言っていられません」

仙台1号店の行列は途切れることなく、続いている。小雪が舞うなか、店の前で行列に並ぶ客を見て、小平は熱いウーロン茶をサービスすることにした。ポットに入れたお茶と紙コップを入り口の前に用意したのである。そして、普通の飲食店なら、それで終わりだ。

だが、王将は違う。忙しさのなか、従業員は紙コップにお茶を注いで、並んでいる客のひとりひとりに配る。客の体と心はそれであたたまる。客を第一に考える。当たり前のことを愚直にやることが「餃子の王将」の体質になっている。(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

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(尾関裕士=撮影)