目標の4倍近くの売り上げを記録

「クルトガエンジン」を解体したもの。オレンジの部分につけられたクルトガマークが、書くたびに回転していく。
「クルトガエンジン」を解体したもの。オレンジの部分につけられたクルトガマークが、書くたびに回転していく。

三菱鉛筆のシャープペンシル「クルトガ」は、芯が回るというまったく「新しい構造」を備えた商品。筆圧を加えるたびに芯が少しずつ回転するので(1画で9度、40画で360度回転)、ある面だけが紙に接して減る「偏減り」と呼ばれる現象が軽減する。つまり、書いているうちに文字がだんだん太くなるとか、芯の角が崩れて粉が出るといったシャープペンシル特有のトラブルが解決されたのだ。

2008年3月に発売されると、「クルトガ」は中高生を中心にクチコミで瞬く間に広がり大ヒット。年間80万本という当初の目標を軽くクリアする300万本の売り上げを記録して、現在でも生産が追いつかない状態。いったい、どんな会議を経て「クルトガ」は生まれたのか。時間を追って検証する。

芯が回る「回転シャープ」が初めて陽の目をみたのは05年11月の会議だった。それは中山協さん(横浜研究開発センター課長)をはじめとする開発チームの面々が、マーケティングを担当する本社の商品開発部に対してプレゼンする形で行われた。中山さんは歯車を噛み合わせて芯を回転させる、後に「クルトガエンジン」と呼ばれるキモの部分を手づくりで準備して持参、ほかにCGを用いた三次元構造図などを携えていた。

「数年かけてやっと生まれたアイデア。これが、商品開発部の賛同を得て商品化につなげられなければ、シャープペンシルの開発は永遠にできないと思って臨みました」

商品化へ向けて次のステップに進むために中山さんは一計を案じる。

「中高生が小遣いで買える数百円の価格帯で発売できる。しかも、短い納期でつくれることをアピールして、最後にメカ的なことを説明する。今までのパターンとは逆にしました」