コラム:弘兼憲史の着眼点

▼15年周期の危機を乗り越えた“コミュ力”

小林さんの話を伺っていて頭に浮かんだのは、「適者生存」という言葉でした。

弘兼「『島耕作』でも取り上げているゲノム編集への投資などはどうでしょう?」
小林「回収まで時間がかかりすぎる。商社では長期的観点からの投資は難しい」

1980年前後、円高などの影響を受け「商社冬の時代」が訪れ、商社不要論が叫ばれるようになった。そこでアメーバのように姿を変えて生き残ってきたのが現在の総合商社です。ただ、財閥系の総合商社と違い、後ろ盾のない伊藤忠は元来逞しかったと言います。

「我々はいつもガツガツしていました。伊藤忠の人間が通った後にはぺんぺん草も生えていないと言われた時期もあった。生き残るためにリスクのある商売をしなければならなかったのです」

15年周期で会社の危機が起きていました、と小林さんは朗らかに笑いました。対談中、「商社マン」に必要な資質を尋ねると、こんな言葉が返ってきました。

「我々の業界は自分一人では何もできない。みんなで隊列を組んで方向性を決めて、さあ行くぞというプロセスが必要なんです。商社マンはみんなと仲良くやらなければなりません」

為替の変動、商社の危機を乗り越えてきたのは、このコミュニケーション力ではないかと強く感じたのでした。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(構成=田崎健太 撮影=大槻純一)
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