受話器で殴られ、定規で叩かれ

伊藤忠商事社長 小林栄三
こばやし・えいぞう●1949年、福井県生まれ。県立若狭高校卒。72年大阪大学基礎工学部卒業後、伊藤忠商事入社。2004年6月から現職。10年4月より代表取締役会長に。

商社である伊藤忠商事にとって、人材、人脈は最大の財産です。商社で働くならば、モノにもおカネにも企業にも、そして人間にも興味を持たなくてはなりません。

人に興味を持つということは、イコール、人を好きになるということ。人を好きになるということは、個人の強い点を認めるということです。欠陥や弱点ばかりを指摘するのではなく、いい点を見つける。メーカーのような技術がベースになっている企業と商社は根本的に発想が違うのです。

では、相手の強い点を見出すためにはどうしたらよいか。それは一にも二にもコミュニケーションを密にし、能力を磨くことです。

「鉄は熱いうちに打て」の言葉どおり、新入社員の時代からきちっと教育することが必要です。自分の過去を振り返っても、入社して右も左もわからない時代に、私は「鬼軍曹」とも呼ぶべき上司に、ボコボコにされました。

受話器で殴られる、定規で叩かれることなど日常茶飯事。社内にもいろんな逸話が残っています。

現在の感覚からするとびっくりされる方もいるでしょう。私も会社が嫌で嫌でしようがなかった。しかし、いま当時を振り返ると、それは鬼軍曹の愛だったことに気づきます。

やはり愛情なくしてあそこまで真剣に怒ることはできないでしょう。

厚い英文の契約書に関するミーティングを夜の7時半から始めようと言われたこともありました。朝9時から働いた揚げ句に、容赦なく夜半過ぎまで絞られる。もともと頭のできはよくないのに、意識が朦朧としていて、ボケ面もいいところです。

しかし、よくよく冷静に考えてみると、「これも愛なのだ」と気づいたのです。上司にしても、こんなことにつき合わなければ、早くうちに帰って寝ることができるわけですから。

愛情は大切です。