行政を歪めるのはルール違反の天下りのほうだ

突如沸騰した加計学園問題。岡山市の学校法人加計学園が愛媛県今治市に予定している獣医学部の新設計画で、行政当局が学園理事長の友人である安倍晋三首相の意向を汲んで、特別扱いをしたのではないかという“疑惑”である。

結論から言えば森友学園問題と同じく、安倍政権側にダイレクトにお金が渡っていない限り不正・違法性はない。

先日告発会見を行った前文部科学事務次官の前川喜平さんは、加計学園の獣医学部の新設について「(本来は新設を認めるべきではないのに)行政が歪められた」と言っているけど、僕の認識では、今の行政を歪めているのは霞が関省庁の不合理な規制の方だ。特に今回の獣医学部の新設を規制するような「需給調整規制」こそ日本の行政を歪めている典型例。すなわち加計学園に獣医学部の新設を認めたことよりも、これまで52年も獣医学部の新設を認めてこなかった文科省こそが行政を歪めている。

そして何よりも前川さんも自ら手を染めていた文科省のルール違反の天下りこそが行政を歪めている。

行政のこれまでのやり方を変えるのに特区という制度を用いて風穴を開けるのは政治の役割そのものだ。その際に、政治の方から行政に指示を出すのは当然のこと。さらに総理の御意向や政治の御意向が強くなければ岩盤規制は打ち破れない。安倍政権から文科省に働きかけ、もっと言えば指示があったとしても何の問題もない。それこそが政治主導の行政そのものじゃないか。

問題があるとすれば特区というものを活用する際に、首相と非常に近しい間柄の人に利益を与えることになる場合の政治的な振る舞い方。僕ならこういう状況では自分の友人にはあえて辞退してもらうね。どうしても親しい友人が利益を受けそうであれば、それこそ幾重にも手続きを被せて後から批判されることがないように細心の注意を払っただろう。

少なくとも自分の友人だけでなく複数事業者を審査のテーブルに載せて、フルオープンの場で厳しく審査してもらうことは絶対に必要不可欠だった。今回は色々な条件が事前に付されて結局首相の友人である加計さんの学園だけが審査対象になった。これは非常にまずかった。

ただ、ここは最後は有権者の審判に委ねることなんだよね。あくまでも政治的振る舞いの問題だから。ゆえにメディアが検証するなら、政治が行政に働きかけをした! とういう点ではなく、「特区制度の中で首相の友人が利益を受ける際にどのような手続きを踏むべきか」という点なんだよ。

森友学園問題において散々論じたけど、今回の加計学園問題で政権を追及する側(野党・メディア)はまず加計学園から政権側にお金が渡っていたかどうかをしっかり掴まないといけないのに、そこができていない。金の流れを掴んでいないから追及する側は森友学園問題のように戦略性のない追及になっている。とりあえず話題性のある現象に飛びついてしまっている状態。それらのほとんどは加計学園問題の全体解決には繋がらない周辺的問題点なんだ。

では安倍政権側に不正・違法性がなければ何も問題にならないのか? 確かに森友学園問題でも政府、特に財務省の8億円の値引き根拠の説明はグダグダなのに、内閣支持率はそれほど下がらない。加計学園問題でも内閣支持率は大きく下がらないかもしれない。

でもね、僕は来るべき憲法改正の国民投票にはじわっと影響してくるのではないかと感じている。森友学園問題や加計学園問題における今の安倍政権の対応は、内閣支持率や自民党支持率には大して影響しないかもしれないけど、憲法改正国民投票のときには賛成を取り付けるのに苦労することになる。つまり今の安倍政権の対応がじわっと影響して、国民は憲法改正反対の方向に振れてしまうのではないかと感じている。

まあ前川さん側にさまざまな問題があったとしても、前川さんが会見で力説したとおり「総理のご意向」が働いたとする文科省の内部文書が存在したことは事実かなとも感じる。前川さんはあの文書の作成者や、その文書を使って部下から説明を受けた日まで具体的に挙げているからね。そうであれば前川さんが挙げた名前の関係者などのヒアリングを行って徹底して疑惑を晴らすために調査をする姿勢を示すのが政権の態度振る舞いの姿ではないのか。

あの文書に書かれていることが事実であっても何の問題もない。岩盤規制を打ち崩すために政治が行政に対して強烈な指導力を発揮したのは、今求められている政治の姿そのものだ。一点問題があるとすれば、首相と親しい間柄の者に特区制度を活用して利益が与えられる結果になったこと。ここは素直に国民の審判に委ねるしかない。安倍さんは「友人には退いてもらうべきだった」「複数事業者をテーブルに乗せて公開の審査をすべきであったところ手続きが甘かった」という反省の意を素直に示して、前川さんや前川さんが名前を挙げた者を国会に呼んで事実を明らかにすべきだ。そういう政権の姿勢こそが国民からの信頼を高め、それが憲法改正の国民投票での国民の投票行動にプラスに影響してくるだろう。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.56(5月30日配信)からの引用です。もっと読みたい方は、メールマガジンで!! 今号は《【加計学園問題】前次官の告発で大騒動!支持率は下がらなくても憲法改正国民投票に影響する!》特集です。

(撮影=市来朋久)
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