改革実現にはトップダウン、つまり「御意向」が必要

政府が約束していた待機児童解消の目標年度が2020年に3年先送りされた。今の政治行政のやり方だったら2020年にも目標は達成されないだろう。それは待機児童数の見立てが根本から誤っているからだ。

政府は保育所定員を22万人分拡大することを目標としているが、0歳から5歳までの就学前児童のうち幼稚園にも保育所にも通っていない児童が200万人ほどいる現実を前提にした目標に変える必要がある。22万人という数字はこれまでやってきた保育行政を前提に役人が積み上げた数字。役人はこれまでのやり方の誤りをなかなか認められない。ゆえにこれまでのやり方の誤りを素直に認め問題解決のためにドーンと目標を変えるのが政治の役割なんだよね。

そしてこれまでの保育行政がやってきたように建物がっちり型の保育所を増やすことを中心に考えると、保育所の需要予測が外れ保育所が余ってしまう事態を恐れて保育所建設数すなわち保育所定員数をどうしても控えめに見積もってしまう。

僕は大阪市長のときに「供給過剰(保育所が余る状態)になるくらい保育所を整備する計画に変えるべき」と号令をかけた。

行政はとにかく需給調整をしたがる。「保育所がそんなに増えてしまうと子供たちが集まらない保育所が出てきて保育所経営が行き詰まる」と。常に保育所経営者の視点なんだよね。

既存の保育所経営者は自分たちの立場を守りたい。できる限り競争にさらされたくない。ゆえに大阪市では僕が市長になるまで株式会社の保育所参入を拒否していた。さらに「建物がっちりタイプ」ではない新しいタイプの保育所が参入する際には「いざというときにサポートしてくれる既存の建物がっちりタイプの保育所の同意を一つもらって来い」というルールを作っていた。

そりゃ既存の建物がっちりタイプの保育所は、新しいタイプの保育所がどんどん増えることは嫌だからなかなか同意を出さず、結局新しいタイプの保育所は増えなかった。もちろん僕が市長に就任してこのルールや制度を変えて、新しいタイプの保育所がどんどん増える仕組みにはしたけど。

既存の保育所たちは、自分たちを守ってくれる議員とタッグを組みそして役所ともタッグを組んで、できる限り競争にならないようにあの手この手を尽くす。そうやって既存の保育所の利益は守られる一方、保育所に子供を入れることができず困っているお母さんたちがどんどん増える。

加計学園の獣医学部新設問題では、安倍晋三首相の「御意向」により文部科学行政が「歪められた」と前川喜平・前文科事務次官が政権批判の会見を行ったけど、それを言うならこのような役所の需給調整こそが行政の歪みでしょ。

まあ役所側の言い分も分からんでもない。既存の保育所団体から票を受けるのと引き換えに既存の保育所の利益を守ろうとする議員からうるさく言われたらうっとおしい。役所の職員は選挙に晒されるわけではないので、住民の声よりも議員の顔色を窺ってしまう。さらに役所が政策を遂行する上で既存の保育所たちの協力を受けなければならないことがたくさんある。ゆえにどうしても既存の保育所たちの顔色を窺ってしまう。

これこそが既得権益が守られる岩盤規制の構造なんだよね。

ここを変えようと思えば、必要なことはたった一つ。政治の力。半ば強引と言われるような政治力を発揮しないと変えることなどできない。下から積み上げたボトムアップ型の意思決定で岩盤規制が変わるなら、これまでとっくに変わっていたよ。

ボトムアップで意思決定すれば、どうしても力をもった既得権側が勝利する。ここを打ち砕くためにはトップダウン型の意思決定が必要になる。大騒ぎが続いている加計学園問題では「総理の御意向」が働いたといって安倍政権が批判されているけど、こういうときまさに「総理の御意向」「知事の御意向」「市長の御意向」が必要になるんだよね。

大阪府の文書、大阪市の文書を確認したら、橋下知事の御意向、橋下市長の御意向という文言が山ほど記載されていると思うよ(笑)

獣医学部の新規設置を52年間も認めてこなかった文科省の岩盤規制を打ち破るために総理の御意向は必要だし、総理の御意向は存在したのだろう。それこそが政治主導だ。あとはやっぱり加計学園の選定の仕方。総理の友人である加計氏には今回はあえて辞退してもらえばかっこよかった。仮に加計学園しか担えない事情があったのなら、やはり一社入札はダメ。何とか複数事業者に手を挙げてもらって、公開の場で厳正に審査するプロセスが必要だった。この点安倍首相は素直に反省して謝罪すれば、政治主導で岩盤規制を打ち砕いたことの方がよっぽど評価されると思うんだけどね。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.57(6月6日配信)からの引用です。もっと読みたい方は、メールマガジンで!! 今号は《【こども保険に大反対:その2】そもそも国と地方の動かし方を間違えている!》特集です。
 

(撮影=市来朋久)
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