日本が不公平と批判された理由

米国がTPPから抜けたことで、保護主義がすすみ、世界の自由貿易体制が後退するとみなす論説が多い。現実はまったく反対だ。トランプが優先する日米や米中など2カ国交渉によって、アジアの貿易自由化やルールの厳格化は加速化する。

トランプは離脱理由のひとつとして、日本とのTPP協定を「不公平」と名指ししてきたが、根拠のない話ではない。関税撤廃率を比較すれば、一目瞭然だ。米国を含む11カ国がほぼ100%に対して、日本だけ参加12カ国で最低の95%となっている。トランプが厳しく非難するメキシコでさえ、99%撤廃を達成。日本の低さの原因となっている農産品目の撤廃率は、11カ国平均で98.5%に対し、日本だけが81%と圧倒的に低い。約2割の品目に関税が残っているのだ。しかも、コメの関税778%、バター360%をはじめ、世界でもまれにみる超高関税を温存した。撤廃した81%にしても、保護主義的といわれる中国よりもずっと低い。例えば中国・ニュージーランドFTAの場合、97%撤廃となっている。自由貿易の基本とは関税がない状態であり、TPP圏の中で、その状態からいちばん遠い保護主義国が日本なのである。

そんな日本とTPP交渉で妥協したオバマ政権を「無能」とみなし、「もっとタフな交渉をしなければならない」と、トランプは主張してきた。2000年刊の自著で、すでに以下の持論を展開している。「米国の周りに保護主義の壁は必要ない。海外品が米市場でオープンなのと等しく、米製品も彼らの市場でオープンであることが保証される必要がある。我が国の長期的な国益は世界の貿易パートナー国とよりよい協定を結ぶことにある」。その証拠にアメリカより自由化が進む、豪州やニュージーランド、シンガポールに対して、トランプは交渉を求めていない。

TPP11が発効した際の一例として、牛肉に対する関税をとりあげよう。日本は現在38.5%の関税が27.5%に下がる。発効10年目に20%、16年目に9%まで引き下げを合意しているが、撤廃はしない。ベトナムは3年目、カナダは6年目など、他国は撤廃するにもかかわらず、日本だけ例外扱いだ。

ここで2カ国交渉が登場する。TPPの“場外乱闘”で、米国は「もっと早く下げろ」と脅しをかけてくるだろう。農家のトランプ支持率は7割を超えており、米世論からのプレッシャーもある。もし日本が応じれば、他のTPP国も同じ条件を要求する。FTAとTPPが競争関係を持つことで、自由化のスピードが速まるというわけだ。