トランプ流交渉で揺さぶられる中国

中国に対しても同様である。「中国はTPPに裏口から入ってくる」とトランプは牽制してきた。先進国の日本に例外を認めた状態で参加を許せば、中国にも例外を認めざるをえなくなるという意味だ。それよりもTPPから離脱し、中国と直接交渉したほうが早い。実際、4月の習近平国家主席との首脳会談で、トランプは牛肉の中国向け輸出と中国の市場開放を求め、習は協議をすすめることに合意したという。中国が米国産牛肉への自由化を高めればどうなるか。現在、中国は日本からの和牛輸入は完全に禁止しているが、日本政府は「米国だけを例外にするのはおかしい」と解禁要求を強めることができる。TPP11や中国が主導するRCEPの参加国と協調してもいい。結果的に、2国間、多国間交渉かを問わず、自由化がすすむ流れになる。

さらにトランプは、偽造品輸出や企業秘密の盗用、海賊版ソフト利用などで、世界中の企業が悩まされてきた中国の知的財産問題にも切り込む。先のトップ会談でこの解決に向けて、協議することが決まった。選挙期間中は「中国に高関税をかける」「為替操作国だ」と脅しておいたうえで、会談では北朝鮮問題なども絡める、脅し・すかしを使ったトランプ流交渉術だ。

近代経済学の父で自由貿易の祖アダム・スミスは『国富論』でこう記している。相手国の法外な高関税や輸入禁止を撤回させるには、「その時々の状況の変化に応じて、考え方を変える狡猾でしたたかな連中、政治屋と呼ばれる人の技量に任せるべき問題」。「一般原則にたって物事を考える学者が取り扱うべき問題ではない」。どうりで学者肌の官僚同士が交渉しても、自由化がすすまないわけだ。

トランプの脅しで、長年、知財を濫用してきた経済大国・中国と、農業の保護主義をしてきた日本が自由化し、ルールを守るようになったら……。よりビジネスしやすい世界になるに違いない。

(写真=AFP=時事)
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