イノベーションを定着させる仕組み

ワールプールの変革プログラムは、同社を汎用品メーカーから脱皮させて、顧客とのすべての接点でイノベーションを重ねていく企業へと変貌させるために、1999年に開始された。同社の新しいビジョン「あらゆる人、あらゆる場所からのイノベーション」を実行するにあたっては、CEOのデイビッド・R・ウィトワムが陣頭指揮を執り、イノベーションへのコミットメントを全社に浸透させることをめざした。

彼はまず、幹部チームと協力して、イノベーションを組織に深く根づかせるためのメンタル・モデルを構築する作業に着手した。彼らは、同社が「定着の輪」と呼ぶビジュアル・ツールを使ってこれを成し遂げた。「定着の輪」の一番外の輪にはビジョンと目標が掲げられている。中間の輪には、組織のあらゆるレベルでイノベーションの定着を支援していくために必要なインフラが示され、さらに幹部の説明責任と能力開発、文化と価値観、財務・人的資源、インセンティブと団結のための仕組み、ナレッジ・マネジメントと学習、測定と報告が記されている。このツールの中心には、イノベーションを実現するために必要な具体的なプロセスとツールが示されている。

ワールプールが実施したような変革プログラムでは、多くの前線で同時に進行することが重要である一方で、この種のプログラムの初期には、一部の側面が他の側面より目立つことがある。こう語るのは、『Strategic Innovation: Embedding Innovation as a Core Competency in Your Organization(戦略的イノベーション:イノベーションをコア・コンピタンシーとして組織に定着させる/邦訳なし)』 (2003年)の共著者で、経営コンサルタントのデボラ・L・ドゥアルテだ。ワールプールの場合、それはシード資金だった。これはイノベーションの一側面についての小規模な実験に充てられる少額の資金(2万5000~10万ドル)で、この資金を与えるかどうかの決定権は、ミドル・マネジャー、マネジャー委員会、それに社内のイノベーション・コンサルタントにある。この資金を申請するには、イノベーションのアイデアをビジネスの観点から説明した事業計画を提出するだけでよい。つまり、社内のいくつもの階層を経てトップから許可をもらわなくても、実験費用が得られるのだ。