実験および失敗を受け入れる

ワールプールで資金が与えられた実験のような、フィードバックをもたらす小規模な実験はイノベーションの活力源だ。こう語るのは、ハーバード・ビジネス・スクールの教授で、『Experimentation Matters :Unlocking the Potential of New Technologies for Innovation(実験の重要性:イノベーションのために新技術の潜在的可能性を解き放つ/邦訳なし)』 (2003年)の著者、シュテファン・トムケである。実験は、企業が技術・生産・市場面の不確実性を管理する助けになる。「企業は社外の人間を大勢雇って、彼らの経験を引き出そうとする。実験をすれば、他の手段の数分の1のコストで問題を解決できることが多いのに、なぜ実験をしないのか」。ただし、実験を行う場合には、成功と失敗の両方から学ぶ姿勢を養うことが不可欠だ、と彼は言う。「失敗は避けられないものだ。最終的に成功するためには、その過程でたくさんの失敗をする必要がある。実験は、失敗から最大限の情報や洞察が得られるように設計されるべきだ。とくに初期の段階では、失敗を防ぐために行動を遅らせることなどがないよう、注意する必要がある。迅速にフィードバックを得るという方法によって、成功と失敗の両方から短期間で学ぶことができ、学んだことを組織に浸透させることができる」。

ワールプールは、社員がイノベーションのためにリスクを冒すことを全社的に応援し、同社の幹部は失敗から学ぶことの大切さを公の場で語ってきた。さらには、失敗から学んだ社員に褒賞を与えることまでしてきた。

イノベーションに対するコミットメントを制度化していく中で、ワールプールはイノベーションの有効性を測定する基準を開発した。開発の第一段階は、同社の幹部チームが測定可能な定着目標(成果目標ではなく)を明確にすることだった。成果目標は長期的な営業成績に関係があるが、定着目標は「定着の輪」に示された活動の進捗状況に焦点をあてたものだ。この種の目標にはまったく新しい測定基準が必要だった。たとえば、イノベーションを成功させるために除去された主な障害の数とか、イノベーションの結果、変化した仕事の数など。

適切なビジョンとプランがあっても、イノベーションを初めて企業の中核に据える際の文化の変革は容易ではない。失敗についての組織の考え方を変えること1つをとっても、とてつもない難事業だ。しかし、ワールプール社の戦略的コンピタンシー創出・リーダーシップ担当副社長、ナンシー・テナント・スナイダーはワールプールでの経験から、幹部の支援があればイノベーションへのコミットメントは組織の隅々にまで浸透していくと確信している。

(翻訳=ディプロマット)