いいとこ取りの合意などできるはずない

イギリスがEU離脱、ブレグジット(Brexitは「Britain」と「Exit」を掛け合わせた造語)を選択した国民投票(昨年6月23日)から1年近くが経過する。離脱の手順についてはEUの基本条約であるリスボン条約の50条に規定されている。当該国が離脱をEU理事会に通告することで手続きが始まり、離脱国とEUで脱退協定締結のための協議を行う。脱退協定が締結された場合、協定発効をもって離脱国にEU法は適用されなくなる。それまでは加盟国としての権利・義務は残る。交渉が難航して脱退協定が締結できなければ、離脱通告から2年でEU法が適用されなくなる。ただし、すべての加盟国が同意すれば、この期間は延長できる。これに準拠してイギリスのメイ首相はEUのドナルド・トゥスク議長にブレグジットを正式通告した。先の3月29日のことだ。ここから2年のうちに離脱交渉がまとまれば円満離脱、まとまらなければ自動的にイギリスはEUから切り離される。人もモノも金も自由に行き来できなくなり、輸出入には関税もかかる。EU域内だけではなく、EUとして貿易協定を結んで無関税や低関税で交易している相手国との関係も切れる。

総選挙の前倒し実施を表明するメイ英首相(4月18日)。(AFLO=写真)

そもそもブレグジットとなれば、イギリスはすべての貿易相手国と一から交易条件を話し合わなければならない。

国民投票ではこうしたブレグジットの不都合が離脱派ポピュリストの声高な主張にかき消されて、国民にきちんと示されなかった。移民の流入を制限できないとか、移民・難民に職を奪われるとか、ブリュッセル本部のEU官僚に箸の上げ下げまで指図されるとか、EUメンバーとして不都合なことばかりがハイライトされて離脱派が勝った。国民投票の結果に法的拘束力はない。しかし国民が選択した以上、政府はやらざるをえないというスタートは、メイ首相にとっては気の毒ではある。自身はブレグジットに反対の立場だったのだから。

政権を引き継いだメイ首相は「離脱を成功させる」と決意を示して、自ら望んだ通り、交渉の全権を一任するとの承認を議会から取り付けた。その勢いで正式な離脱通告を提出し、ブレグジットのドアを開けてしまったわけで、これからはメイ首相が数々の過ちを犯すことになる。なぜならドアの向こうに正しい解はないからだ。脱退協定の交渉はイギリスにとってもEUにとっても実りはなく、不毛な議論にしかならないだろう。2月のEU首脳会議では、まだEUメンバーでありながらイギリスは呼ばれなかった。残った27カ国で「結束を固めよう」とか「裏切り者のイギリスには絶対にいいとこ取りをさせない」という確認を当然しているはずである。これから先の交渉でメイ首相はイギリスに有利な条件を勝ち取ろうとしても、「いいとこ取り」の合意は得るのは難しい。