特別検察官がどこまで疑惑を解明するか

あまりに予見不能なトランプ政権は長く持たないと私は見ていたが、タイミングは案外早くやってくるかもしれない。呼び水になりそうなのが、米連邦捜査局(FBI)のジェイムズ・コミー長官の電撃的な解任劇。FBI長官の指名も罷免も大統領に権限がある。だがFBIやFRB(アメリカの中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会)は政治からの独立性が制度的に担保された機関で、複数の政権で横断的な仕事ができるようにFBI長官の任期は10年に設定されている。コミー氏がFBI長官に就任したのはオバマ政権時代の13年。任期を6年も残して更迭されるのは異例だ。

ホワイトハウスはヒラリー・クリントン元国務長官の私用メールサーバー問題についての取り扱いが不適切だったことを解任理由に挙げている。しかし、コミー前長官は大統領選の終盤になって民主党候補だったクリントン氏のメール問題について再捜査を宣言(投票2日前に訴追見送りを発表)して、これがクリントン氏の敗退の一因になったという見方もある。当時、トランプ大統領は大絶賛していたし、FBI長官留任はその論功行賞とも言われた。

それがなぜ今になって解任なのか。クリントン氏のメール問題のみならず、FBIは昨年の大統領選からトランプ陣営の幹部がロシアと接触していたとされる問題を捜査していて、陣頭指揮を執っていたのがコミー前長官だ。前長官の捜査に対して、トランプ大統領は「でっち上げ」「捜査は税金の無駄遣い」と非難していた。その末の解任劇である。かつてニクソン大統領がウォーターゲート事件を調査中の特別検察官を更迭したことがある。今回のFBI長官の更迭についてもトランプ政権とロシアの関係をめぐる疑惑、「ロシアゲート」隠しの捜査妨害ではないかとの批判が民主党やメディアから噴出したのだ。さらに世論の関心の高まりを受けて、米司法省は一連のロシアゲート疑惑の真相を究明するために、中立で独立性の高い特別検察官を任命した。これも異例なことだ。