物流システムを効率化しても、宅配現場の負担を軽減する決定打にはならない。なぜなら、荷物を届ける最終行程に課題があるからだ。

悲鳴を上げるヤマトや佐川の配送現場

宅配便業者の負荷が臨界点に近づいていることを物語るニュースが立て続けに聞こえてくる。昨年末、宅配便の配達員が配達中の荷物を投げたり蹴ったりしているネット動画が投稿サイトにアップされて話題になった。事実関係を認めた当該業者は陳謝したが、配達先が不在で荷物を持ち帰る途中の出来事だったそうだ。

年が明けて1月、宅配便最大手「クロネコヤマト」のヤマトホールディングスは2016年の宅急便の取扱量が前年比8.9%増の18億4121万個となり、過去最高を更新したと発表した。翌2月にはヤマト運輸の労働組合が荷物の取扱量の抑制を経営側に要求し、経営側もこれを受け入れて宅急便の引受総量を抑制する方針を示した。「荷物量」が春闘のテーマに持ち上がるほど、宅配現場の人手不足、配達員やドライバーの労働環境の劣悪化は深刻なのだ。

人手不足で宅配現場の労働環境は悪化している。(AFLO=写真)

人手不足によるサービス残業は業界全体で常態化している。ヤマト運輸では約7万6000人の社員を対象に未払い残業代の調査に乗り出した。未払い分が確認されて支給するとなれば、必要な原資は総額で数百億円規模に上る可能性があるという。連結営業利益が約600億円のヤマトHDとしては体力的には対応できるが、現場に負担がかかる現行の業態に限界がきているのは間違いない。

ヤマト運輸は配達時間帯の一部変更(正午~午後2時までと午後8~9時の時間帯指定の配達を廃止して、午後7~9時の時間帯を新設)や、再配達の受付締め切り時刻を繰り上げる(午後8時までを午後6時40分、午後7時までに)など、サービスの内容を変更、基本運賃の27年ぶりの値上げも決定した。労働環境の改善を図るという。無料再配達、即日配達、などの過剰な利便性を取りやめることも検討されている。またアマゾンジャパンなど大口の法人顧客との配達契約の内容を見直して、宅配便の取扱量を抑制していく方針で、配送現場の窮状緩和には実はこちらのほうが大事だと私は思っている。

国土交通省によると、2016年の宅配便の取扱個数(トラック輸送分)は約38.7億個で、6年連続で過去最高を更新した。このうち18.4億個がクロネコヤマトの取り扱いであり、全体の47.5%を占めている。宅配便が右肩上がりに増え続けている背景にあるのが、EC市場の拡大、いわゆるネット通販の急増である。なかでも勢いが飛び抜けているのはアマゾンで、16年の日本事業の売り上げは前期比17.5%増の1.1兆円。その荷物をほとんど一手に引き受けているのがヤマト運輸だ(一部は日本郵便)。アマゾンといえば品揃えや低価格だけではなく、当日配達や日時指定などの配送サービスも大きな強み。2000円未満の購入やお急ぎ便、当日お急ぎ便といった配送サービスは別途料金がかかるが、(プライム)会員になれば基本的に無料で使い放題。こうした利便性が宅配現場の仕事に重くのしかかっているのだ。